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新潟県弁護士会 声明・意見書

ストリートビュー機能のサービス拡大についての意見書

2010-01-15

第1 意見の趣旨

1 グ-グル社は、ストリートビューサービスについて、①撮影用カメラ位置を人の目線まで下げること、②撮影に当たっては周辺住民に対する事前告知を行なうこと、③公開に際しては、単に自動認識装置による「ぼかし」処理のみによることなく、グーグル社自身によって、公開画像に「ぼかし」処理の漏れなどプライバシー上問題のある画像がないかを目視等の方法によって確認すること。さらに、容易になし得る不適切画像削除の仕組みを整備、周知するとともに、被撮影者の電話等による不適切画像削除の申入れについて迅速かつ的確に対応し得る体制を構築するなどして、ストリートビューサービスによるプライバシー侵害及びその可能性をなくするための措置を可及的速やかに講ずるべきである。

2 これらの措置が十分に講じられていない現状のまま、同サービスの提供を継続することはプライバシー侵害の可能性が高く、グーグル社は、ストリートビューサービスの提供をひとまず中止すべきである。

 

第2 意見の理由

1 グーグル社のストリートビューサービスについて

(1) 「Street View(以下、「ストリートビュー」という。)」は、2008年8月5日から、Google社(以下、「グーグル社」という。)が提供を開始した機能サービスであり、グーグル社が実際に道路を車で走行して撮影した360度のパノラマ写真を電子情報化しストリートビューサイト上で公開し、ユーザーが同サイトの地図上で閲覧できる機能である。

(2) ストリートビューは、日本では、当初、札幌、東京、大阪等12都市または地域が対象とされていたが、その後数都市を対象とした画像が追加して掲載され、2009年12月からは、新潟県内において撮影された画像が掲載されるに至っている。

(2) インターネット上に掲載された画像は、商業地域だけではなく、住宅地域も含まれており、個人の住宅、人物が撮影されているが、グーグル社は、これらの撮影にあたって被撮影者の同意を得ておらず、また、インターネット上に掲載することについても同意を得ていない。

(3) インターネット上に掲載された画像は、人物の正面の顔画像及び車のナンバープレートについては、自動認識装置によって、「ぼかし」が施されているものの、この処理がなされていない画像の有無をグーグル社自身が目視等の方法によって再確認するなどの作業がなされている形跡はない。また、顔正面画像に「ぼかし」が施されていても、被撮影者を知っている者には、服装や背格好等から、被撮影者の特定が容易に可能である。

また、カメラの位置が歩行者の視点より約1メートルも高く設定されていたため、歩行者等の視点であれば、塀によって遮られるはずの民家の中をのぞき見る形式の画像も撮影される。グーグル社は、撮影位置を歩行者の目線に近い位置まで下げる修正をしたとされるが、少なくとも2009年12月に掲載された新潟県内を撮影した画像は、歩行者の目線よりも高い位置から撮影されたものが公開されている。

(4) グーグル社のホームページは、世界最大の検索エンジンを有する強力な情報媒体であり、これらの画像は、全世界の極めて多数の市民の目にさらされる。しかも、電子データの特性上、画像が容易かつ半永久的に第三者により2次利用されうるのであり、今日のインターネット社会では、携帯電話やパソコンで、誰もが自由に自分の思いどおりの情報を発信し、2次・3次利用することができる。

他方で、被撮影者は、誰がいかなる目的で自分が写されている画像・映像を保存、利用しているのか知る術はない。

(5) グーグル社では、公表された写真について、ユーザーの申告によって後から削除する仕組み(オプト・アウト方式)をとっているが、このような方法によっても、ストリートビューを利用しない人はもちろんのこと、いつどこで被写体とされているかわからない以上、被撮影者が問題画像に気付くことは困難であり、また、後で削除されたとしても、削除される前にその情報が保存されてしまえば、容易に2次利用されうるものである。

2 ストリートビューのプライバシー上の問題点

(1) 公道におけるプライバシー権について

公共空間において、互いに他人の容ぼう等を見られることは、人が社会生活を営む以上、不可避である。

しかし、通りすがりに見られるだけでなく、それを2次・3次利用可能な電子データ画像・映像として記録されたり、それを公表されることについてまで承諾しているものではない。その場合、自分が写されている画像・映像を、誰がどのような目的で保存、利用するか不明だからである。

判例も、公道においても、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由(プライバシー権の一種である肖像権)が保障されているとしている(最高裁大法廷判決1969年12月24日、京都府学連事件判決)。

(2) グーグル社の撮影・公表行為がプライバシーに抵触すること

以上のように、個人の私生活上の自由として、プライバシー権(肖像権を含む。)を保障されていることからすれば、その撮影及び公表は、被撮影者の同意のもとになされるのが原則であり、グーグル社が、被撮影者の同意なくして撮影し、これを公表する行為は、個人のプライバシー権の観点から問題があるものと言わざるを得ない。

この点、「ぼかし」の施されていない顔写真及び車のナンバープレートの場合はもちろん、人物画像の顔に「ぼかし」が施されている場合であっても、前述のとおり、その人物を知っている者からは容易に特定されうる以上、プライバシーとの抵触は避けられない。

とりわけ、グーグル社の撮影行為は、いつ、どこで撮影されるかわからないとの点で、無防備な市民を撮影する点に特徴がある。人は公道で行動する場合であっても、特定の場所にいることや、特定の人と行動をともにしていることを見られたくないことがあるが、グーグルのストリートビューは、自分の気付かぬ間に、一台の通りすがりの車にその様子を撮影され公表される危険性を有している。

また、ストリートビューサービスの公表行為については、そのホームページ自体が強力な媒体で、極めて多数の市民の目にさらされており、テレビのニュース番組等のように一時的・背景的に映像が流れるのと異なり、撮影場所が特定できる状態で長期間画像を見られること、電子データの特性上、画像が容易かつ半永久的に第三者により2次利用されうる危険性を有している。

また、ユーザーの申告によってあとから削除する仕組み(オプト・アウト方式)によっても、被撮影者が問題画像に気付くのが困難であることは既述のとおりであり、また、削除されたとしても2次利用による被害が容易に生じ得るため、最初から肖像権・プライバシー権侵害がなかった状態には戻らない。

以上からすれば、グーグル社が、前述の自動認識装置によって「ぼかし」を施しており、その措置がプライバシー侵害のおそれを軽減するものであることは事実であるが、これによって、プライバシーの侵害のおそれがないとはいえず、その程度も軽視できないというべきである。

(3) その他の問題点

ストリートビューには、個人の住宅なども撮影されて公表されている。これらの情報もプライバシー権による保護の対象として考慮されるべき情報である。特に、住所情報と連動して、家屋の写真が自由に閲覧できると言うことは、特定の人物について住所情報が分かっていれば、興味本位的に特定の人物の家屋をのぞき見することが可能となるばかりか、空き巣や誘拐などの犯罪行為の事前調査にも利用されうる可能性がある。

また、カメラの撮影位置が高いため、通常の歩行者からの視線では見えない部分までも撮影し公開されることは、かようなリスクを増大させるものである。

この点においても、プライバシー上の危惧を払拭できない。

(4) ストリートビューの社会的有用性によって、プライバシー侵害が正当化されないこと

他方で、グーグル社のストリートビューについても、インターネットの情報通信を用いた表現行為であるといえること、近隣地域を視覚的に探索できるようになることなどによる一定の社会的有用性があることは否定するものではない。

しかしながら、表現の自由とプライバシーの衝突に関する判例は、プライバシーを侵害する表現行為が許される場合としては、対象となる人物が公的な人物である場合、表現行為に公益性がある場合などに限っており、一般私人が、単に社会的に有用であることを理由に、プライバシー権の侵害を甘受しなければならないとは考えられていない。

よって、グーグル社のストリートビューに、表現行為としての性質があること、一定の社会的有用性が認められることによって、プライバシー権の侵害が正当されることにはならない。

 

3 本意見書を発する理由及びプライバシー権を保護するための措置について

新潟県弁護士会は、グーグル社に対し、2008年12月24日、会長声明として本意見書と同様の措置を求めたものであるが、グーグル社が会長声明に記載した事項を善処しないまま、新潟県地域の公開に至ったことは誠に遺憾であるといわねばならない。

当会は、これまで述べたとおり、グーグル社のストリートビューにはプライバシー侵害のおそれが高く、その程度も軽視できないこと、さらに、プライバシーの権利が、ひとたび侵害されると容易に回復しがたい性質を有することに鑑み、本意見書によって改めて善処を求める次第である。

これらの措置は、前記会長声明において求めていた事項とほぼ同趣旨のものであり、グーグル社が法人としての表現の自由及び営業の自由を有することを考慮し、最低限の要請を行う趣旨のものである。

(1) 撮影用カメラの位置は人の目線まで下げること

撮影用カメラの位置を人の目線に下げることにより、歩行者等の視線に入らない画像(家屋をのぞき込むような画像)を排除することができ、プライバシー保護の観点から有益である。

(2) 撮影に当たっては周辺住民に対する事前告知を行なうこと

撮影及び公開は、本来同意を得て行うのが原則であり、その観点からは少なくとも周辺住民に事前告知を行うべきである。これにより、被撮影者としては、自己が撮影の対象となりうることを知ることができ、事前対策を講ずることができ、問題画像を発見し、申告することも容易になると考えられる。

(3) 公開に際しては、単に自動認識装置による「ぼかし」処理のみによることなく、グーグル社自身によって、公開画像に「ぼかし」処理の漏れなどプライバシー上問題のある画像がないかを目視等の方法によって確認すること。さらに、容易になし得る不適切画像削除の仕組みを整備、周知するとともに、被撮影者の電話等による不適切画像削除の申入れについて迅速かつ的確に対応し得る体制を構築するなどして、ストリートビューサービスによるプライバシー侵害及びその可能性をなくするための措置を可及的速やかに講ずること。

ひとたび、プライバシーを侵害する画像が公開された場合には、その後削除されたとしても、2次利用等の危険を拭いされることができない以上、プライバシーを侵害する画像の公開をなくすることが肝要である。その最も確実な方法は、グーグル社自身が自動認識装置だけによるのではなく、目視等の方法による確認を徹底することにある。

そして、それでもなおプライバシー上問題がある画像が公開されてしまった場合に備え、現在なされている不適切画像削除の仕組みが、被撮影者に十分に周知され、利用が容易であり、的確な対応がなされるものである必要がある。

 

新潟県弁護士会

会長  和 田 光 弘