新潟県弁護士会

声明・意見書

2008年05月23日|声明・意見書

名古屋高裁自衛隊イラク派遣差止訴訟判決に関する決議 決議理由

提案理由

1.名古屋高裁自衛隊イラク派遣差止訴訟判決の意義

(1)意義

ア 本年4月17日、名古屋高等裁判所は、いわゆる自衛隊イラク派遣差止訴訟において、以下のような判決を下した。

すなわち、本判決は、現在のイラク国内における多国籍軍と武装勢力の間の戦闘は、実質的には平成15年3月当初のイラク攻撃の延長であって、外国勢力である多国籍軍対イラク国内の武装勢力の国際的な武力紛争が行われているといえるとし、特に、首都バグダッドはイラク特措法(正式名称は、イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法)上の「戦闘地域」に該当するとした。そして、航空自衛隊のバグダッド空港への空輸活動は、多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な事実上の後方支援を行っているものということができ、航空自衛隊の空輸活動のうち、少なくとも多国籍軍の武装兵員を「戦闘地域」であるバグダッドへ空輸するものについては、他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力行使を行ったとの評価を受けざるを得ず、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条 3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいると判断した。

また、本判決は、憲法前文の平和的生存権について、全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利であり、裁判所に対してその保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求し得る具体的権利性が肯定される場合があると判断した。

イ 本判決は、イラクの首都バグダッドがイラク特措法上の「戦闘地域」に該当することについて、政府解釈を前提として以下のとおり判示している。

(ア)自衛隊の海外活動に関する憲法9条の政府解釈は、自衛のための必要最小限の武力の行使は許されること、武力の行使とは、我が国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいうことを前提とし、他国による武力の行使への参加に至らない協力(輸送、補給、医療等)については、当該他国による武力の行使と一体となるようなものは自らも武力の行使を行ったとの評価を受けるもので憲法上許されないが、一体とならないものは許されることを内容とする。

(イ)イラク特措法は、このような政府解釈の下、我が国のイラクにおける対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならないこと(2条2項)、対応措置については、我が国及び現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為)が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる一定の地域(非戦闘地域)において実施すること(2条3項)を規定するものと理解される。

(ウ)政府においては、イラク特措法にいう「国際的な武力紛争」とは、国又は国に準ずる組織の間において生ずる一国の国内問題にとどまらない武力を用いた争いをいうものであり、戦闘行為の有無は、当該行為の実態に応じ、国際性、計画性、組織性、継続性などの観点から個別具体的に判断すべきものであること、個別具体的な事案に即して、当該行為の主体が一定の政治的な主張を有し、国際的な紛争の当事者たり得る実力を有する相応の組織や軍事的実力を有する組織体であって、その主体の意思に基づいて破壊活動が行われていると判断されるような場合には、その行為が国に準ずる組織によるものに当たり得ること、等の見解が示されている。

(エ)認定できる事実によれば、アメリカ軍を中心とする多国籍軍は、バグダッド等の各都市において、武装勢力の掃討作戦等を繰り返し行っており、各武装勢力は海外の諸勢力からもそれぞれ援助を受け、アメリカ軍の駐留に反対する等の一定の政治的目的を有し、相応の兵力で組織的かつ計画的に多国籍軍に抗戦し、その結果、民間人や兵員に多数の死傷者が出ており、多国籍軍の活動は、単なる治安活動の域を超え、外国勢力である多国籍軍とイラク国内の武装勢力との間で国際的な戦闘が行われているということができる。

特に、バグダッドでは多数回の掃討作戦が展開され多数の犠牲者を続出させており、バグダッドはイラク特措法上の「戦闘地域」に該当する。

このように、政府解釈を前提としても、バグダッドがイラク特措法上の「戦闘地域」に該当するとの判断は、事実審の最終審である高等裁判所が認定した事実を前提とすれば、一般人にとってもごく常識的な判断といえる。

ウ 本判決は、「憲法9条1項に違反する活動を含んでいる」とした航空自衛隊のイラクにおける空輸活動について、具体的には以下のとおり事実認定し、「他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない」としている。

(ア)航空自衛隊は、C-130H輸送機3機を用いている。これはアメリカ軍が開発したパラシュート部隊のための輸送機であり、完全武装の空挺隊員(パラシュート隊員)54人の輸送が可能、物資の最大積載量は約20トンである。

(イ)上記輸送機は、飛行の際に地対空ミサイルを回避するための兵器であるフレア(火炎弾)を臨時装備しており、イラクへの出発前に硫黄島でフレア訓練を実施し、実際にバグダッド空港での離着陸時にフレアが自動発射されている。

(ウ)航空自衛隊は、空輸活動にあたり、カタールのアメリカ中央軍司令部に空輸計画部を設置し、アメリカ軍や英国軍と機体のやりくりを調整して飛行計画を立て、上記3機に任務を指示している。

(エ)平成18年7月ころ(陸上自衛隊のサマワ撤退時)までの空輸状況については、輸送の対象のほとんどは、人道復興支援のための物資ではなく、多国籍軍の兵員であった。

(オ)平成18年7月から現在までの空輸状況については、航空自衛隊のイラク派遣当初は、首都バグダッドは安全が確保されないとの理由でバグダッドへの物資人員の輸送は行われなかったが、陸上自衛隊のサマワ撤退を機に、アメリカからの強い要請によりバグダッドへの空輸活動を行うことになり、同月31日からバグダッドへの輸送を開始した。

平成18年7月から平成19年3月末までの輸送回数は150回、輸送物資の総量は46.5トン、うち国連関連の輸送支援として行ったのが25回、延べ706人の人員及び2.3トンの物資であり、それ以外の大多数は、武装した多国籍軍(主にアメリカ軍)の兵員であると認められる。

(カ)政府は、国会において、航空自衛隊の輸送内容について、多国籍軍や国連からの要請により、これを明らかにできないとしている。他方、久間防衛大臣は、国会において、「実は結構危険で工夫して飛んでいる」、「クウェートから飛び立ってバグダッド空港で降りる、バグダッド空港から飛び立つときにも、ロケット砲が来る危険性と裏腹にある」などと答弁している。

このように、本判決は、政府が国会や国民に対し航空自衛隊の輸送活動の詳細を明らかにしない中において、その実態を詳細に事実認定し、これを前提として、「他国による武力行使と一体化」しているという一般人にとってもごく常識的な判断をしている。

エ 以上のとおり、本判決は、

  1. 政府が明らかにしようとしないイラクにおける航空自衛隊の空輸活動の実態を詳細に事実認定した点、
  2. 政府の憲法解釈を前提としても、認定した航空自衛隊の空輸活動にはイラク特措法や憲法9条1項に違反する活動を含んでいるとして、戦後初めて自衛隊の活動に対する違憲判断をした点、
  3. 憲法前文の平和的生存権について、裁判所に対してその保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求し得るという具体的権利性が肯定される場合があると判断した点

において、重要な意義があり、高く評価されるべき判決である。

2.イラクにおける死傷者数の現状

米国防省の本年4月24日の発表によれば、米軍の死者は4049名、負傷者は2万9,829名である。

また、イラク・ボディ・カウントによれば、非戦闘員たる一般のイラク市民の犠牲者数(死者数)については、本年4月20日現在8万3,002名~9万0,550名となっている。

このような現状を踏まえても、バグダッドが「戦闘地域」に該当し、「国際的な武力紛争」の現場となっているとの本判決の判断はごく常識的であるといえる。

3.本判決に対する批判とそれに対する反論

本判決に対する批判として、概ね以下のものがあると思われるが、いずれも以下のとおり失当であり、本判決の意義を失わせるものではない。

(1)結論を導くのに不要な「傍論」であるとの批判について

本判決が、差止請求については当事者適格がないとの理由で訴えを却下し、損害賠償請求については「控訴人らには、民事訴訟上の損害賠償請求において認められるに足りる程度の被侵害利益が未だ生じているということはできない」、つまり、損害がないとの理由で棄却したことをとらえ、憲法9条1項違反の判断は結論を導くのに不要な「傍論」であると批判するものがある。

しかし、仮に憲法9条1項違反との判断が「傍論」であるとしても、それは後訴の裁判所の判断を拘束しないというだけのことである。本判決は、両当事者の主張立証を踏まえ、詳細な事実認定に基づき説得力のある判断をしており、憲法9条1項違反の判断が「傍論」であったとしても、政府としてこれを尊重すべきは当然である。

また、少なくとも、損害賠償請求については、国家賠償請求における「違法性」は加害行為の違法性と被侵害利益における違法性との相関関係において判断されるという見解(相関関係理論)に立てば、加害行為とされる自衛隊のイラク派遣の違法性、違憲性を判断することは、結論を導くのに不可欠ということもできる。

いわゆる長沼ナイキ基地訴訟で自衛隊違憲判決を下した元判事の福島重雄氏も、「傍論」、「蛇足」等の本判決に対する批判に対し、「原告の主張するような憲法違反があるかどうかという事実認定をまず確定したうえで、その事実に基づいて原告に訴えるだけの権利、利益があるのかどうかを判断した手法は、裁判のあり方としては常道であり、なんら問題はない」と反論している(本年5月1日付朝日新聞)。

(2)付随的違憲審査制や憲法81条に反するとの批判について

本判決が、判決理由中で憲法9条1項違反を指摘しながらも、結論においては控訴人らの請求を却下ないし棄却したことをとらえ、具体的事件の解決と無関係に憲法判断をしたものであって、結論で勝訴した国の上告の途を閉ざし、ひいては最高裁判所の終審としての憲法適合性決定権限を奪うもので憲法81条に反するとの批判である。

しかし、具体的事件の解決と無関係に憲法判断をしたとの批判については、前記(1)で述べたとおり、事件の結論を導くのに不可欠な判断であったという見方が可能である。

また、憲法81条に反するとの批判については、最高裁判所の判断が示されないことになったのは、控訴人らが上告をしなかったことにもよるのであり、名古屋高等裁判所が最高裁判所の憲法適合性決定権限を奪ったと断ずるのは行き過ぎた批判のように思われる。

4.本判決を受けた政府の対応について

(1)本判決無視の対応

政府は、本判決の直後より本判決を無視する対応をとっている。

すなわち、福田康夫内閣総理大臣は、本判決の違憲判断は傍論であり何ら対応をとるつもりはない旨を述べ、航空自衛隊トップの田母神俊雄航空幕僚長は本判決翌日の記者会見で、本判決がイラクに派遣中の隊員に与える影響について、某お笑いタレントのフレーズを引用し「私が心境を代弁すれば『そんなの関係ねえ』という状況だ」と述べた。憲法尊重擁護義務を負う航空幕僚長としての、司法府の違憲判断を揶揄し軽視するかのような上記発言は誠に遺憾であり、強く非難されるべき発言である。

さらに、報道によれば、政府は本年4月30日の閣議で、辻元清美衆議院議員(社民党)の質問主意書に対し、本判決は傍論にすぎない、自衛隊のイラク派遣は憲法の範囲内である旨の答弁書を決定したとのことである。

(2)政府の対応に対する批判

政府の対応は、名古屋高裁が事実審の最終審として政府が明らかにしなかった航空自衛隊のイラクにおける空輸活動の実態を詳細に事実認定し、政府解釈を前提としてもなお違法、違憲であるとした判断を正面から受け止めることのない、極めて不当な対応である。

先に述べたとおり、「傍論」か否かは本判決の後の裁判所に対する拘束力の有無の問題である。「傍論」であるから、政府は本判決を無視して何らの対応もしなくともよいということにはならない。当事者としてイラク派遣の合憲性について十分に主張立証の機会を与えられた国(政府)に対し、名古屋高裁が違憲判断をしたのであるから、憲法尊重擁護義務を負う政府として本判決の判断を尊重し、自衛隊のイラク派遣のあり方を見直すべきことは当然である。

したがって、政府は、本判決を「傍論である」の一言で一蹴するのではなく、自衛隊のイラクでの活動内容を国民や国会に対し明らかにし、政府解釈を前提としても違法、違憲であるとした司法の判断を真摯に受け止め、少なくとも、輸送対象のほとんどが人道復興支援のための物資ではなく武装した多国籍軍の兵員であったと認定された、航空自衛隊のイラクでの空輸活動を直ちに中止すべき責務がある。

さらに、多国籍軍(主にアメリカ軍)の要請が「戦闘地域」への兵員と物資の輸送にあるという本判決が認定した事実関係を踏まえれば、イラク特措法上も憲法上もこれに応ずることができない自衛隊が海外に留まる理由はないというべきであるから、速やかに撤退させるのが筋というべきである。

5.新潟県弁護士会として本総会決議をなすべき必要性

(1)弁護士会は、いうまでもなく、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の強制加入団体である。

自衛隊のイラク派遣に関し憲法違反と判断した本判決は、まさに、基本的人権の擁護と社会正義の実現に関係する事柄であり、弁護士会がこれに対し適宜意見表明することは社会的要請でもある。

また、憲法改正手続法が制定され、憲法改正問題が現実化している今日においては、憲法問題に関する市民への正確な情報の提供や市民の関心を喚起し議論の素材を提供することも弁護士会の重要な職責の1つである。

その意味において、弁護士会としては本判決について意見表明をすべきものと考えた。

(2)強制加入団体である弁護士会が、本決議のように個々の会員の思想・信条や消極的表現の自由を害するおそれのある意思表明をすることに対しては慎重であるべきであるとの意見も存する。

しかし、現実には、憲法尊重擁護義務を負う内閣総理大臣や自衛隊幹部が、高裁において違憲の司法判断が出たにもかかわらず、これを軽んずる発言を公然としており、本判決を尊重し、自衛隊の活動を改めようとする姿勢を見せていない。また、自衛隊の違憲な活動を抑止するための制度が整備されておらず、違法行為の是正手段が他に見当たらない。以上より、この状況において、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律家の団体である弁護士会が意見表明をする高度の必要性があるというべきである。

また、個々の会員の思想・信条に関わるからこそ、会長声明や会長談話ではなく、総会の場での十分な議論を経た総会決議による意思表明がふさわしい。弁護士会においても少数意見の尊重は必要であるが、総会の場でこそ意見表明の機会が十分に保障されるというべきであるし、仮に、本決議がなされた場合でも、決議の公表の際に反対意見の票数や内容をも紹介することにより、反対会員の思想・信条等への配慮は十分になしうる。

何より、憲法9条に関わる問題は、政治問題ではなく人権問題であり、弁護士ないし弁護士会の本来的使命に関するものとして、積極的な意見表明を躊躇すべき理由はない。

6.よって、本決議案を提案する。

以上

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