新潟県弁護士会

声明・意見書

2009年03月23日|声明・意見書

労働者派遣法の改正とセイフティ-ネットの確保を求める意見書 決議理由

第1 労働者派遣法改正について
1 労働者派遣法改正の必要性
1947年に制定された現行職業安定法は、労働者供給事業について、これが他人の労働の上に搾取をする制度であり、労働者に対する不当な圧迫を加える例が少なくないことから全面的に禁止していた。
1985年制定の労働者派遣法は、この労働者供給事業を労働者派遣という名のもとに許容した。そして、制定以来、数次の法改正により労働者派遣をなし得る範囲は飛躍的に拡大してきている。特に、製造業に対する労働者派遣を可能とする法改正により派遣労働者数は激増し、現在では労働者派遣における格差、無権利状態が社会問題化するに至っている。これは、1947年に現行職業安定法が制定された際の懸念が現実化したものと言わざるを得ない。
このような観点から、以下に述べる三原則に則った労働者派遣法の改正が必要である。
(1) 労働者派遣をなし得る範囲の例外化
上記の経過に鑑みるとき、労働者派遣は、真にその必要性があり、かつ、労働者の雇用と労働条件を劣悪にする危険性のない、例外的な場合においてのみ許容されるべきである。
(2) 雇用の安定化
2008年から2009年にかけて500人近い人々が日比谷公園の年越し派遣村に押しかけた事態は私たちの社会に衝撃を与えた。全国各地で派遣切りにより多くの労働者が職を失い、生活基盤を失い、健康で文化的な最低限度の生活を脅かされていることが明らかとなったのである。
しかも年越し派遣村に押しかけた人々は氷山の一角である。厚生労働省の2009年2月報告によると、2008年10月から2009年3月までに職を失う非正規労働者は全国で約15万8000人(うち派遣は10万7375人、製造業派遣は10万6289人)、新潟県内で2761人(うち派遣は1893人)にのぼる。
派遣労働者を雇用の調整弁とし、安易な派遣切りにより路頭に迷わすことがあってはならない。
派遣労働が認められる範囲内においても、派遣労働者の雇用を安定化する方策が採られるべきである。
(3) 労働条件の向上
派遣労働においては、正社員等との間の格差等労働条件が劣悪となる傾向があると指摘されている。このような劣悪な労働条件は派遣先にとっては派遣の使い勝手のよさとなり、常用労働が派遣労働に置き換えられていく大きな要因をなす。また、派遣労働者において直接雇用の常用労働者となるために必要な教育訓練を受けることを妨げ、派遣労働者を固定化することにもつながる。派遣労働者が職を失った場合には、直ちに生活が脅かされることにもなってしまう。
例外的に派遣労働を許容するのであれば、派遣労働者の労働条件を、人たるに値する生活を営みうるようなものとするための規制が必要である。
2 なされるべき法改正
以上の三原則に則り、以下の法改正がなされるべきである。
(1) 労働者派遣をなし得る範囲を限定するための改正
ア 上記した労働者派遣の弊害からして、労働者派遣はあくまでも一時的・臨時的なものとして位置づけられなくてはならない。
もちろん、個々の条文において労働者派遣を一時的・臨時的なものとするような改正がなされるべきではあるが、それとは別に、労働者派遣は一時的・臨時的なものとしてのみ許容される旨の基本規定を置き、各条文解釈の指針とすべきである。
イ 派遣対象業種は専門的なものに限定すべきである
労働者派遣法が1985年に成立して以降、当初専門的業種13業種だけについて認められていた労働者派遣が原則自由となり、2003年には製造業についてまで認められるに至っている。その結果、現在の大きな社会問題が生ずるに至っている。
専門的業種以外の業種については、労働者の交渉力が弱く、その労働条件が劣悪化し、雇用も不安定となりがちである。
このことは製造業において顕著である。例えば、厚生労働省の2009年2月報告によると、2008年10月から2009年3月までに全国で職を失う派遣労働者10万7375人のうち製造業に従事する者は10万6289人である。このデ-タは製造業において派遣労働者の雇用が極めて不安定な状態におかれ、生活が脅かされていることを示している。また、労働災害に被災した派遣労働者は2004年には667人であったが、製造業派遣が解禁された2003年を経て2007年には5885人へと急増している。しかも、このうち、製造業における労働者災害は2703人と最多である。
以上より、非専門的業種における派遣労働、とくに製造業派遣の弊害は明らかである。非専門的業種、特に製造業における派遣労働は禁止されるべきである。
ウ グル-プ内派遣は原則として禁止すべきである。
派遣元が派遣先企業と同じグル-プ内にある労働者派遣も多数存在する。このようなグル-プ内派遣は、派遣先企業が雇用主としての責任を回避しつつも、グル-プ内における統一的な人事管理の下で労働者派遣事業を用いて雇用調整を行なうことを可能とするものである。また、グル-プ内派遣においては、労働者を退職させてグル-プ内の派遣会社に転籍させた上、引き続き当該労働者を同一企業に派遣労働者として受け入れることがあり、その過程において賃金等の労働条件の引き下げが行われることもある。
このように、グル-プ内派遣は、雇用責任に関する法規制の脱法手段となり、派遣労働者の労働条件の切り下げ手段としても使われかねないものである。
この点、政府案は、グル-プ内派遣は8割以下にするとしているが、上記弊害に鑑み、グル-プ内派遣は、特段の必要性、労働条件の相当性等の要件を備えた場合のみ認めるという考え方を採るべきである。
エ 派遣先における特定行為は原則として禁止すべきである。
政府案は、新たな規制緩和として、期間の定めのない派遣労働契約については、特定を目的とする行為を可能としている。派遣先が誰を派遣させるかについて、面接して労働者を特定し選択できるとするものである。
しかし、労働者の採用権限は派遣元にのみあり、派遣先が臨時的・一時的に派遣労働者を受け入れるに過ぎないのであれば、面接は不必要なはずである。
また、特定を目的とする行為を可能とすることにより、企業が基幹業務をも含むあらゆる業種・業務において直接雇用を派遣へと切り換えることを助長することになる。
よって、期間の定めのない派遣労働契約について特定を目的とする行為を可能とする法改正には反対である。
また、現行法では紹介予定派遣について特定行為の禁止が解除されている。しかし、同様の理由により紹介予定派遣においても特定行為を原則的に禁止する規定が設けられるべきである。
オ 派遣受入れ期間については、現行法では、専門的業務については期間制限がなされていない。しかし、労働者派遣は一時的・臨時的にのみ認められるべきであるから、受入れ期間については1年の上限を設けるべきである。
(2) 雇用の安定化のための改正
ア 登録型派遣は禁止されるべきである
現行法では、仕事があるときにだけ賃金が支払われ、仕事がないと賃金が支払われない「登録型」派遣が認められている。
この制度による労働者の地位は極めて不安定である。
このような派遣労働は、不当な中間搾取を許し、また派遣元を傀儡として利用することによる常用雇用の回避、派遣先の法的責任回避を容易にしてしまうと言わなければならない。このような不合理性から、諸外国では認められていないものである。よって、登録型派遣は禁止されるべきである。
イ 日雇い派遣の禁止の原則化が徹底されるべきである。
現行法では、派遣先が毎日変わる「日雇い派遣」が認められている。
日雇い派遣は、派遣労働者を、毎日使用者が変更し、かつ、毎日明日は失業するかもしれないという不安定な立場におくものである。これでは雇用者が雇用責任を果たしているとは言えない。よって、日雇い派遣は、専門的業務であり、派遣労働者に交渉力があり、かつ、賃金や安全衛生等の労働条件上不利益が及ぶ危険が少ない通訳等の例外的業務を除き禁止されるべきである。
政府案は、日雇労働者についての労働者派遣を禁止している。
しかし、「当該日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務として政令で定める業務」については日雇派遣禁止の例外としている。この点、「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」は、「専門業務等を中心に、労働者の側に広く交渉力があり、短期の雇用であっても労働者に特段の不利益が生じないような業務もあり、これらの業務であって日雇形態の派遣が常態化しているものについては、禁止をする必要がない業務もある」としている。そして、現在、専門26業務にはOA機器操作、ファイリング、清掃等のように、いまや専門業務とはいえない業務が多数含まれている。また、専門業務だからといって、「労働者の側に広く交渉力がある」とはいえない業務も多数含まれており、これらの業務一般について日雇派遣を認めた場合、雇用と労働条件の劣悪化をもたらす可能性を否定できない。
このような状況に鑑みると、日雇労働が許容される場合を政令に委ねた場合、清掃等の業務が安易に専門業務として日雇派遣の例外とされ、日雇派遣禁止の立法趣旨が貫徹されない危険性がある。よって、日雇派遣禁止に例外を設けるとしても、法律の段階で、専門的業務であり、派遣労働者に交渉力があり、かつ、賃金や安全衛生等の労働条件上不利益が及ぶ危険が少ない例外的業務を具体的に限定列挙し、政令には委任するべきではない。
また、政府案では、派遣元事業主に対して日雇派遣を禁止しているが、派遣元と派遣労働者との間で「所定労働時間は勤務シフトによる」とする労働契約が締結されると、常用型派遣においても派遣労働者は派遣先の都合で日々不安定な立場におかれることになる。そこで、法により最低限の就労日数を決め、派遣労働者がその日数分の就労を希望したにも関わらず派遣先の都合によりその日数分就労し得なかった場合には派遣元により6割の休業手当が支払われることを確認すべきである。
さらに、政府案では、31日以上の期間を定めて雇用する派遣労働は禁止されない。しかし、例えば、31日の期間を定めて雇用される派遣労働者は、毎月翌月の職を失うという恐怖にさらされることになり、失職をおそれ権利行使も十分になし得ない可能性もある。そこで、有期の労働者派遣については、派遣元において契約を更新しないためには正当な理由が必要であるとの規定も必要である。
ウ 直接雇用のみなし規定が必要である。
現行法は、派遣先に対し派遣可能期間経過後も就労を継続する派遣労働者に対しては、直接雇用申込み義務を課している。しかし、違法状態が後を絶たない。この点、政府案は、期間経過後の派遣、違法派遣について派遣先に直接雇用申込みを勧告し得るものとしている。
しかし、勧告だけでは十分な実効性はない。違法派遣、期間経過後の派遣については派遣先との直接雇用のみなし規定が必要である。
なお、政府案は、期間の定めなき派遣労働契約等について派遣可能期間経過後の直接雇用申込みを不要としているが、これは派遣を固定化させるものであり、反対である。
(3) 労働条件の向上のための改正
ア 派遣労働者について派遣先労働者と均等待遇をなすべき義務規定が必要である。
派遣労働者の賃金額は派遣先の正規雇用職員に比較して極めて低いのが一般的である。
安価でいつでも契約を打ち切れることは派遣先にとって好都合である。このことこそが派遣労働が蔓延する大きな原因である。よって、派遣労働者の賃金額を増額させ、正規雇用職員との差を解消ないし縮小することが必要である。
この点、政府案では、「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の従事する業務と同種の業務に係る一般の賃金水準その他の事情を考慮しつつ、その雇用する派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、その賃金を決定するように努めなければならない」としている。
しかし、上記規定を設けても、既に派遣労働が蔓延している業種においては、「同種の業務に係る一般の賃金水準」自体が低くなっているであろうし、賃金決定の際に考慮すべき要素が多岐に渡るため結局は現状の格差を放置する結果になりかねない。
また、単なる努力義務では不十分である。
よって、派遣先社員との均等待遇の義務規定を設ける必要がある。
この点、EUでは、2008年10月22日に派遣労働指令が採択され、派遣労働者の派遣先従業員との均等待遇(同一価値労働同一賃金等)が法制化されることになったことも参考とされるべきである。
イ 利ざや率の上限規制をすべきである。
労働者供給事業が禁止されてきたのは中間搾取の危険性があるからである。
しかし、現行法では、労働者派遣という形態において労働者供給事業を許容しておきながら、中間搾取を制限する規制はなされていない。その結果、現状においては、派遣先が派遣元に支払う派遣料金と派遣元が派遣労働者に支払う賃金との間に大きな格差が生じ、多くの派遣労働者が働いても楽にならない状況に置かれている。
この点、政府案は利ざや率の情報提供義務を派遣元に課している。
しかし、利ざや率が明らかとなっても、派遣労働者にとっては余り朗報とはいえない。
なぜならば、派遣労働の問題は、専門性の低い一般労働者にとって、雇用主との間の労働条件の交渉が対等ではないことが最大の問題で、利ざや率が透明化されると、かえって率の低い派遣元には多数の応募者が殺到してしまうという動きとなるから、交渉力の低い労働者は、結局、労働条件の切り下げによって職を得るという以外に選択肢がないからである。よって、利ざや率自体の適正化を図るため上限を設定すべきである。

第2 派遣労働者のためのセ-フティ-ネットの確立について
1 生活保護規定の活用
日本国憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を実現するため、生活保護制度が存在する。生活の危機に瀕した派遣労働者についても同法が適用されることは当然である。しかし、実際の適用場面においては役所の窓口で不適切な対応がなされ、本来なされるべき支給がなされない事例もある。
そこで、以下の点につき、生活保護制度が適切に運用されるよう求める。
(1) 居住地について
派遣切りをされ、寮などの住居を追われ、やむなくホ-ムレスとなったような人たち、
会社が倒産したり、病気になったりして失職し、収入が無くなりアパートを追われた人たちは数多く存在する。生活保護の趣旨はそのような人たちに健康で文化的な最低限度の生活(憲法25条)を保障するセーフティネットである。
しかし、現実には住所地が不明であるとの理由で保護申請すら拒否される場合もある。
この点、生活保護法19条1項は、住所地がない要保護者についてはその現在地の福
祉事務所が管轄する旨規定している。
よって、住所地が不明であることを理由として保護を拒否してはならない。
(2) 年齢について
比較的若年の人については、求職活動をするのが先だとして保護を拒否する事例もある。
しかし、現在の経済情勢下においては、労働者は就職困難な状況にあり、就労する意欲
と能力があっても、就労する場がないために就職することができない人が多いのである。
現下の緊急事態においては、生活保護法第4条の稼働能力に捉われて補足性の要件を厳
格に解することなく、少なくとも、生活保護を申請すれば、当面は「取敢えず一安心」と
いう機能を発揮できるよう、運用の改善を求める。
以上

新潟県弁護士会
会長 髙野 泰夫

サイト内を検索する

連絡先・交通アクセス

新潟県弁護士会

〒951-8126
新潟県新潟市中央区学校町通1番町1番地
TEL.025-222-5533
詳しい情報を見る

交通アクセス

バス:新潟駅万代口から中央循環線バス乗車、市役所前下車。バス停より300m。
車:新潟駅から約10分。

新潟県弁護士会 新潟相談所
  • 弁護士を講師として呼ぼう!弁護士派遣制度
  • ひまわり基金運営委員会 人権賞
  • 子どもの悩みごと相談 毎週月・木 16〜19時
  • 中小企業の法律相談はひまわりほっとダイヤルへ
  • twitter @mamorun2014
  • ひまわりお悩み110番 0570-783-110
  • ストップ、えん罪!
  • 司法修習生の方へ
  • 東口日本大震災の被災者の皆様へ
  • 新潟県弁護士会住宅紛争審査会
  • 日本司法支援センター 法テラス
  • 公益財団法人 日弁連法務研究財団
  • 関東弁護士会連合会
  • 2016年1月16日 防災シンポジウム 動画によるご紹介
  • 2016年1月16日 防災シンポジウムご報告
  • 弁護士になろう!
スマホ・パソコンからの
相談予約はこちら