新潟県弁護士会

声明・意見書

2010年05月25日|声明・意見書

司法修習生に対する給費制の維持を求める決議 決議理由

裁判所法改正により、2010年11月1日から、司法修習制度における給費制が廃止され、希望者に対して国が修習資金を貸与する貸与制へと移行することが予定されている。
当会は、2004年6月8日、および、2009年10月30日に給費制の廃止に関し、これに反対する内容の会長声明を発しているが、政府はなお、改正法の見直しや改正法の施行を延期しようとせず、給費制の廃止及び貸与制を実施しようとしている。
昨今の法科大学院生及び司法修習生の置かれた現状等を考慮すれば、給費制廃止を実施した場合には、新しい法曹養成制度が真に「国民の社会生活上の医師」を養成することを目指し、「市民の司法」を実現しようとしたことと背馳する結果となりかねない。
日弁連は、2010年4月15日の理事会において、給費制維持緊急対策本部を設置し、給費制維持に向けた本格的な取り組みを開始するとともに、各単位会に対し、取り組みを要請している。
そこで、当会としても、差し迫った緊急課題である給費制維持のため全力を尽くすべきであり、本決議を提案する次第である。
1 給費制廃止に関する経過
新しい法曹養成制度の中核をなす教育機関として法科大学院が創設されてから6年が経過した。
日弁連は、新しい法曹養成制度が「国民の社会生活上の医師」を養成する制度として適切に機能するためには、経済的優劣を問わず法曹への門戸が開かれ、意欲のある者が広く法曹を目指すことができる制度を確立すべきであり、また、「市民の司法」を実現する不可欠の前提であるとの観点から、国が法科大学院制度に対して必要十分な財政措置を講じることを求め、法科大学院に対する財政支援とともに、奨学金制度の充実に向けて取り組んできた。
また、司法修習生に対する給費制の廃止が具体的な課題となる中で、日弁連は、2003年8月に、「司法修習給費制の堅持を求める決議」(2003年8月22日理事会決議)を採択した。同年9月には司法修習給費制問題対策本部を設置し、各単位に対する具体的な取り組みを要請した。これらの日弁連の動きを受け、当会は、2004年6月8日、会長声明を発した。
しかしながら、これらの取り組みにもかかわらず、2004年11月、司法修習生に対する給費制を廃止して貸与制を実施することを内容とする裁判所法の一部を改正する法律(平成16年法律第163号、以下、「改正法」という。)が成立した。
この改正法の根拠としては、①国家公務員の身分を持たない者に対する給与支給は極めて異例の取扱いであること、②司法修習は個人が法曹資格を取得するためのものであり、受益と負担の観点から必要な経費は司法修習生が負担すべきこと、③現行の給費制は法曹人口が希少であった戦後まもなく導入されたが、法曹人口に係る情勢は大きく変化したことなどが挙げられている。
その一方で、上記改正法については、衆参両議院において、「法曹の使命の重要性や公共性に鑑み、高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を養成する」との認識に基づき、「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹の道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方を含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」との附帯決議がなされている。
改正法の施行時期については、原案は2006年11月1日であったが、2010年11月1日へと4年間延期されることとなった。
その後も日弁連は、2009年11月、「法科大学院生及び司法修習生に対する経済的支援を求める提言」(2009年11月18日理事会決議)において、法科大学院生に対する奨学金等の充実と、司法修習生の給費制の維持などを求め、当会においても、2009年10月30日、「司法修習生の修習資金貸与制実施の延期及び給費制の復活に関する会長声明」を発したところであるが、2010年11月1日の施行予定を目前に控えている状況にある。
2 給費制の維持が必要である理由その1(修習専念義務と弁護士の使命等の関係)
司法修習生には修習専念義務が課され(司法修習生に関する規則第2条)、兼職が禁止されている。これに対応して、国は、司法修習生に対して給与を支払い、修習期間中の生活を維持させている。すなわち、給費制は、修習の期間の生活を保障して修習生を修習に専念させることを目的とし、司法修習制度と不可分のものとして運用されてきた経緯がある。
また、給費制に基づく司法修習制度は、裁判官、検察官、弁護士の法曹三者が、いずれの立場にあっても、国の司法制度の一翼を担うという使命の自覚と高い公共心の醸成に寄与してきた。すなわち、国から給費の支給を受けながら修習をするという統一修習制度の中で、司法修習生は、将来自らが司法の一翼を担うことについての責任を自覚しつつ、修習にまさしく専念し、高い公共心を醸成してきたものである。弁護士においても、弁護士法第1条は「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と規定し、その多くが、国選弁護、当番弁護、法律援助事件、各種無料法律相談、各種委員会活動、公益的事件への取り組みなどの公共性・公益性をもった活動に従事し、社会的責任を果たしているが、それは、そのような使命の自覚と公共心に支えられてきたものである。
このように、司法修習生は、一般公務員ではないものの、修習専念義務が課され、兼業が禁止され、他に収入の道がないという点で、給費の支払いを現に必要とするものであり、給費制は修習専念義務を課すについての必要な前提条件であり、高い使命と公共心を持った法曹の養成に欠かせない制度として機能してきたものである。
なお、前記の裁判所法改正と同時期に、医師国家試験合格者には2年間の臨床研修の義務付け及びアルバイト禁止の研修専念義務が課せられた。このため、臨床研修を実施する病院に対し、研修医がアルバイトをせずに研修に専念できる年収額(適正基準360万円)と病院から支給される賃金との差額を補填するものなどとして、2004年には、臨床研修実施病院に対して、研修医一人あたり220万円相当の医師臨床研修費補助金が支給されることとされ、同制度は定着している。これは、医師に期待される役割の公共性に基づくものであるが、弁護士の職責の公共性に鑑みるならば、弁護士と医師の研修は並行して考えられるべきであり、この点からも、現在の給費制は維持されるべきである。
3 給費制の維持が必要である理由その2(経済的負担の過酷さ)
現在の法曹養成制度の核となるのは、法科大学院であり、法曹を目指す者は、2年または3年間かけて法科大学院を卒業しなければ受験資格すら与えられない。
法科大学院の学費は、国立大学の場合、入学金が約28万円、年間授業料は約80万円であり、私立大学の多くは、入学金が20万円から30万円程度、年間授業料は、100万円から150万円程度である。このほかに教科書・参考書などの教材費がかかるほか、無給である以上当然に生活費も必要である。家族を抱えた法曹志望者においては、家族の生活費までを考慮する必要が生じる。
こうした法科大学院における2年または3年間の学費と生活費に加え、法科大学院修了後も、司法試験に合格してから司法修習生になるまでには、卒業後1回目の司法試験に合格できたとしても、約8か月の生活費が必要である。
日弁連が2009年11月19日、20日に実施した司法修習前研修(事前研修)に際し、同研修受講予定者である新63期司法修習予定者を対象に実施したアンケートによれば、回答者1528名中807名(52.81%)が法科大学院で奨学金を利用していたと回答し、その具体的金額を回答した783名の利用者が貸与を受けた額は、最高で合計1200万円、平均で318万8000円に上っている。
このような法科大学院修了のための経済的負担に加え、改正法により、修習専念義務が維持されたまま給費制が廃止されることになると、兼職を許されない司法修習生は、相当の貯蓄がない限りは貸与制度を利用せざるを得なくなると考えられる。法科大学院を卒業し、さらに貸与を受けずとも修習期間中の生活を維持できる者は稀であることは明らかである。基本額で月額23万円の貸与額は1年間の修習修了時点では合計276万円に及ぶ。
このように、法科大学院入学から司法修習生になるまでに生じた経済的負担を考慮するならば、給費制廃止に伴い、司法修習生に生じる経済的負担は余りに過酷である。このような現状のまま、給費制の廃止を実施することは、まさしく、附帯決議で懸念が表明されている「経済的事情から法曹への道を断念する事態を招く」ことにつながりかねないものである。
4 給費制の維持が必要である理由その3(法曹の質の維持)
法科大学院は、当初の制度設計においては、その修了生の7~8割を合格させるとのものであったが、現実に実施された結果によれば、2006年に行われた第1回の新司法試験では、有受験資格者2125人中合格者は1009人であり合格率は48.35%であり、その後年々、合格率は下がり、2009年に実施された第4回新司法試験は合格者数2043名(出願者数比合格率20.99%、受験者数比合格率27.64%)にとどまっている。
その理由として、法科大学院の定員が合格者数に比して多すぎることや、司法試験委員会が当初予定していた合格者数と比較して現実の合格者数が大幅に下回っていることに原因がある。そして、その背景には、年間3000人という法曹人口の創出目標を維持することが現実的ではないとの状況がある。
さらに、法曹の職域拡大が想定ほどには進んでおらず、現在の2000人程度の合格者によっても、司法修習生の就職先の確保すら困難であり、即時独立弁護士(いわゆる即独)や給与の支給を受けない無給弁護士(いわゆる軒弁)などが問題となっている。
このような現状から、法曹の仕事が、資格取得までの道のりは大変に険しい一方、資格を取得した後の将来の展望も開かれていないことから、魅力のないものとなりつつあると考えられる。そのため、文部科学省によると、法科大学院の志願者は、2006年の7万人強をピークとして年々減少し2009年には2万人台となり、とりわけ、社会人を含めた法学部生以外の者の志願者が急減している。
これに加えて、司法修習生に対する給費制の廃止が実施されることになれば、その道のりの険しさと経済的過酷さゆえに、司法の一翼を担うのにふさわしい優れた資質を備えた多様な人材を確保することが困難になっていくものと考えられる。
さらに、司法試験に合格し、司法修習を終え、弁護士になったとしても、その時点では既に多額の負債を抱えていることから、いきおい、公益的・公共的業務よりも営利性・収益性の高い業務にのみ関心を抱く弁護士が増える可能性すら否定できない。
給費制の廃止は、優れた資質を備えた多様な人材の確保という面からも、司法の一翼を担う公益性・公共性を自覚した法曹の意識の養成という面からも、法曹の質の低下を招くおそれが高い。
5 結論
以上のとおり、給費制廃止にはそもそも根本的な疑問がある上、昨今の法科大学院生及び司法修習生のおかれた現状に鑑みるならば、到底その妥当性を承認することはできない。
給費制廃止の理由として挙げられている前記①ないし③の各理由は、そもそもその妥当性を欠くか、立法事実を失うつつある一方、給費制を廃止することは、もはや、附帯決議で述べられた「法曹の使命の重要性や公共性に鑑み、高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を養成する」と理念に反し、「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹の道を断念する事態を招くこと」との懸念を顕在化させるものである。
よって、当会は、国会、政府、最高裁判所に対し、2004年の裁判所法「改正」を見直し、または見直しを前提として同法の施行を延期し、司法修習生に対する給費制を維持することを強く求めるべきである。

2010(平成22)年5月21日
新潟県弁護士会定期総会

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