新潟県弁護士会 – 弁護士会

声明・意見書

2011年05月23日|声明・意見書

原子力発電所事故被災者の「生の声」を踏まえた適切な損害賠償及び真の被害回復の実現を求める総会決議

第1 決議の趣旨

新潟県弁護士会は、東日本大震災による犠牲者の方々に深く哀悼の意を表明し、地震・津波そして福島第一、第二原子力発電所事故による被災者の方々、並びに同事故の復旧作業を続けている方々への支援を惜しまないことを誓う。そして、新潟県に避難されている方々を始め、すべての被災者の切実なる「声なき声」を全力で伝える活動に真摯に取り組むことを決意し、当県が、福島県同様に原子力発電所の立地県でもあり、中越地震・中越沖地震等の震災を経験してきた立場から、被災者の「生の声」を踏まえた適切な損害賠償及び真の被害回復が実現されることを希求して、東京電力株式会社、政府及び原子力損害賠償紛争審査会に対し、下記の諸点を強く要望する。

1 被災者の被害実態について、被災者自身からのヒアリングを早急に実施すること
2 損害賠償について以下の点を検討すること
(1) 早期救済のための被災者の類型別による一律の損害賠償
(2) 損害継続の長期化に備えた一定期間ごとの仮払い又は一部損害の事前払い
(3) 「指針」対象外とされる被災者に対する「実質的判断」「合理的判断」による救済方法
(4) 原子力損害賠償紛争審査会「小委員会」の活用
(5) 将来の健康被害に備えた検査体制と健康被害等の認定手続
3 損害賠償以外に被災者が求める真の被害回復措置を講ずること

第2 決議の理由

1 東日本大震災と原子力発電所事故の発生

2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、我が国観測史上最大のマグニチュード9.0の巨大地震であり、甚大な津波被害とともに、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)の福島第一原子力発電所及び同第二原子力発電所における事故(以下「本件事故」という。)をもたらした。
福島第一原子力発電所では、一部原子炉の炉心溶融が明らかとなり、大半の号機で水素爆発や火災までも生じさせる結果となった。そして、福島第一原子力発電所から半径30キロメートル圏内(同第二原子力発電所から10キロメートル圏内)、さらにそれを越える地域にも放射能の大量放出被害をもたらした。
4月12日には、経済産業省も、本件事故に対する国際原子力・放射線事象評価尺度の適用につき、「レベル7」という、かつてチェルノブイリ原発事故が受けた評価と同等の最悪の評価に引き上げた。
既に本件事故発生から2か月以上の時間が経過しているのに、本件事故による放射性物質の放出と放射線量の増大はいまだに収まっていない。4月17日に東京電力が発表した「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」においても、「放射線量の着実な減少傾向」までに3か月、「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている状態」にするまでに6か月ないし9か月程度の期間が必要とされている。しかも、その工程表さえ、現段階では見込みに過ぎず、確実な工程とは言い難い。
福島県の5月11日現在の発表によれば、同県の避難者総数は9万8240人に及び、うち県外避難者は3万4055人にのぼり、かつてない被災者数となっている。新潟県内にも、全県下において、最大時およそ1万人の被災者が避難する事態となった。

2 原発立地と地震被災県にある当会の活動と決意

新潟県は、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の立地県であるとともに、中越地震(2004年10月)、中越沖地震(2007年7月)という大地震を経験してきた立場にあり、福島県が置かれている現在の苦境を見過ごすことはできない。
当会は、これまで、県内外の避難所における法律相談活動、原発損害賠償学習会などに全力で取り組み継続してきている。
また、提言活動としても、3月18日の「東北地方太平洋沖地震等に関する会長声明」の発表を始め、4月1日には「東日本大震災の被災者に対する現金給与を求める要請書」、同月12日に「東北地方太平洋沖地震による福島第一原子力発電所の重大事故に関する会長声明」、同月19日に「仮払い補償金の支払対象者に関する会長談話」、同月22日に「原子力損害賠償紛争審査会の会議の在り方等に関する緊急申入書」を発表し、被災者が抱える困難を少しでも緩和・軽減するための施策を求め続けてきたところである。

3 被災者の「生の声」こそ重要

このような状況下、原子力損害賠償紛争審査会(以下「審査会」という。)は、原子力損害の賠償に関する法律に基づき、損害賠償の指針(同法18条2項2号)作りを進めている。
今後も、第一次指針において対象外又は検討未了となった項目等が、第二次指針以降において、さらに対象とされ検討の上定められる見込みとなっている。
しかしながら、審査会は、「指針」のもととなるべき被災者の「生の声」をいまだに聞く機会をもっていない。被災者の被害実態は、その「生の声」によってこそ明らかとなり、損害賠償の方向性、被害回復の在り方を考える出発点になる。
当会は、被災者の方々との個別の法律相談活動や原発損害賠償学習会を踏まえて、被災者の方々の「生の声」こそ、もっとも重要視されるべきものと考える。
当会の法律相談活動を通じても、避難時に避難道路がなく渋滞に巻き込まれた際の恐怖による精神的苦痛を訴える方や、営業圏域すべてが30キロメートル圏内のために事業再建が不能となった損害の評価についての意見を訴える方など、その声に耳を傾けることで検討すべき課題が浮かび上がる。また、指摘する被災者の方々もそのような場の設定を強く望んでいる。
当会は、審査会を始め、本来、直接の加害者である東京電力及び原子力発電所設置を国策としてきた政府に対し、改めて、「被災者の被害実態について、被災者自身からのヒアリングを早急に実施すること」を強く求める。

4 適切な損害賠償実現のために

被災者の「生の声」を真摯に受け止めた上で、当会は、被災者に対する適切な損害賠償を実現するために、今後の指針策定において以下の諸点を検討すべきものと考える。

(1) 早期救済のための被災者の類型別による一律の損害賠償
既に、第一次指針も、個々の実費賠償とは別に、避難費用(交通費、家財移動費用、宿泊費等)や精神的損害の定額賠償において、類型的な一律損害賠償の方法に触れている。
こうした一律の損害賠償方式は、個々の損害立証の煩雑さを防止するという意義以上に、被災者が置かれた基礎的な稼働能力の喪失状態(一定期間の避難により居住も就労も奪われ、回復不能若しくは困難となっている状態)そのものの損害評価を類型化し、端的に、直接に、これを補償するという重要な意義を有する。
新潟水俣病第一次訴訟を始め、いわゆる公害・薬害事件等の訴訟において、患者の症状とその経過、年齢、職業、収入、生活状況などの諸般の事情を踏まえた包括一律損害としての慰謝料認定を行った先例は、参考とされるべきである。
無論、被災者が、個別の損害立証によって、類型別の一律損害を越える請求が可能となる場合にこれを排斥してはならないことは言うまでもない。

(2) 損害継続の長期化に備えた一定期間ごとの仮払い又は一部損害の事前払い
被災者の生活不安に対する苦痛は、その精神をも蝕みかねない。これが長期化すればするほど深刻になることは明らかである。
本格的な損害賠償額が決まらず、不安定な状態が長期間続くことにより、被災者が生活意欲を喪失し、将来への希望を失うことは、まさに「二次的被害」と言わなければならない。
そのとき、被災者の方々が、個々の損害立証をあきらめ、請求額自体を低くし、早期解決に流されることが起きるとすれば、これも「二次的被害」と言うべきである。
かかる事態を避けるためには、一定の要件のもとに、損害の継続が長期間に及ぶことに備えて、一定期間ごと(例:3か月単位)の仮払い、又は一部損害を認定しその事前払いによる方法を早急に確立する必要がある。

(3) 「指針」対象外とされる被災者に対する「実質的判断」「合理的判断」による救済方法
第一次指針では、避難等の指示に係る損害の対象区域として、避難区域、屋内退避区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域を掲げ、対象区域からの避難者の避難費用を取りあげている。しかし、同指針の対象外とされた区域からの避難者にも、計画的避難区域の基準である「1年の期間内に20ミリシーベルトに達するおそれ」を抱いたが故の避難者も存するのであり、その他乳幼児や妊婦の方々等においては、避難自体に無理からぬ実質的理由や合理的理由が存する可能性が極めて高い。
これらの方々についても、「指針」の損害賠償の対象とすべきであり、仮に対象外とされたとしても、「指針」は、あくまでも「当事者による自主的な解決に資する一般的な指針」であって、「指針」対象外とされる被災者に対する「実質的判断」「合理的判断」による救済方法も十分に検討されるべきである。

(4) 原子力損害賠償紛争審査会「小委員会」の活用
福島県から3万人を超える方々が全国に避難している。当県にも、8000人を超える方々が避難している。
今後、これらの方々が、指針に即した紛争解決を図るにしても、その居所に近い場所での解決手続が必要となる。
4月15日に発表された文部科学省の「原子力損害賠償紛争審査会の運営及び和解の申立ての処理等に関する要領(案)」第二章には「小委員会」の設置及び運営についての規定がある。これを活用すべきである。
さらに、その「小委員会」には、被災者の実情を踏まえた法的判断(例えば、損害との因果関係など)を行い得る人材を充てるべきである。

(5) 将来の健康被害に備えた検査体制と健康被害等の認定手続
さらに、被害が長期化し、放射線による晩発性障がいの発生が懸念される事態も想定される。今後の事態の推移を見定めながらも、後発する可能性のある健康被害を早期に把握するための検査費用、健康被害が発生した場合の認定手続、治療費用の補償など、それらの体制や手続についても、検討されるべきである。

なお、当会は、当会独自の「東日本大震災・記録ノート」を考案し、被災者の方々の今後の損害立証の一助としてこれを配布している。被災者の方々に対して立証を負担させ、賠償が受けられない事態を生じさせることは避けなければならない。本来、被災者の方々が何を記録し、どのような資料を残すべきかについては、政府主導により早い段階で統一し、重要な記憶や記録が減少・散逸しない方法を的確に講じるべきである。この点についても、審査会は必要な提言を早期に行うべきである。

5 被災者が求める真の被害回復措置を講ずること

損害賠償は、不法行為の被害者が被害を回復するための法的手段の一つでしかない。被災者が失った「かけがえのないもの」は無数にある。一時帰宅した人々が真っ先に手にしたものは、「想い出の写真」であり、「位牌」であると報道されている。東京電力及び政府は、共に、損害賠償では償えない被災者の損害を丁寧にたどるべきである。地域のコミュニティも、家族の絆も、その一つである。真摯な謝罪と真の被害回復に向けたたゆまぬ努力を続けることのみが、被災者の信頼を築く出発点である。
当会は、損害賠償を行うことに加えて、被災者が求める真の被害回復に耳を傾けることを今一度強く求めるものである。

よって、ここに、新潟県弁護士会は、原子力発電所事故被災者の「生の声」を踏まえた適切な損害賠償及び真の被害回復の実現を求め、決議する。

2011年(平成23年)5月20日
新潟県弁護士会定期総会決議

連絡先・交通アクセス

新潟県弁護士会 新潟相談所

新潟県弁護士会

〒951-8126
新潟県新潟市中央区学校町通1番町1番地
TEL.025-222-5533TEL.025-222-5533詳しい情報を見る

交通アクセス

バス:新潟駅万代口から中央循環線バス乗車、市役所前下車。バス停より300m。
車:新潟駅から約10分。

  • 弁護士を講師として呼ぼう!弁護士派遣制度
  • ひまわり基金運営委員会 人権賞
  • 子どもの悩みごと相談 毎週月・木 16〜19時
  • 中小企業の法律相談はひまわりほっとダイヤルへ
  • twitter @mamorun2014
  • ひまわりお悩み110番 0570-783-110
  • ストップ、えん罪!
  • 司法修習生の方へ
  • 東口日本大震災の被災者の皆様へ
  • 新潟県弁護士会住宅紛争審査会
  • 日本司法支援センター 法テラス
  • 公益財団法人 日弁連法務研究財団
  • 関東弁護士会連合会
  • 2016年1月16日 防災シンポジウム 動画によるご紹介
  • 2016年1月16日 防災シンポジウムご報告
  • 弁護士になろう!
スマホ・パソコンからの
相談予約はこちら