新潟県弁護士会

声明・意見書

2013年01月18日|声明・意見書

福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の消滅時効期間に関する意見書

1 本年1月16日の報道によれば、同月15日、東京電力株式会社(以下、「東京電力」という。)は茂木敏充経済産業大臣に対し、特別事業計画の変更を申請し、その中で、福島第一原子力発電所事故(以下、「原発事故」という。)による損害賠償請求に関し、東京電力から各被害者に対して送付した請求用書類を被害者が受領した日から3年間を請求可能な期間とする内容を盛り込んだとのことである。
2 1月16日以前の報道によれば、東京電力の下河邉和彦取締役会長兼原子力損害賠償支援機構運営委員長(以下、「下河邉会長」という。)及び広瀬直己取締役代表執行役は、同月10日、福島県庁で佐藤雄平知事と会談し「賠償が『3年間で終わり』というのは、会社としてあり得ない。」と発言したとされ、同月11日に川内村役場で遠藤雄幸村長と会談した下河邉会長は、損害賠償の消滅時効について「使うことは考えていない」と発言したとされるが、東京電力の消滅時効に関する方針には大きなぶれがあるものと評価せざるを得ない。
消滅時効期間に関しては、日本弁護士連合会が、1月11日付けで、「東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の消滅時効に関する意見書」を発表し、原発事故の被害が深刻かつ広範であることに鑑み、東京電力と国に対して、本件事故の損害賠償請求権について消滅時効を援用しないことの確約を求めていたものであるが、東京電力の方針に関する上記のぶれは非常に遺憾である。
3 未だ避難継続中である被害者も多数おり、原発事故による放射能の影響についても、いつ収束するかもわからない状況の中、被害者が請求書を受領したといっても、東京電力に対し、どのように賠償を請求したらよいのか決めかね、請求できないでいる被害者も少なからずいる。
また、原子力損害賠償紛争解決センターへの申立てを行ったとしても、その手続きの進行が遅延しており、迅速かつ適切な紛争解決が図られているとは言えず、時効の中断効が認められていない現状においては、同センターへの申立ては時効の進行を止める手立てとなっていない。
損害賠償の時効中断のため、訴訟提起するといっても、被害者が訴訟提起に踏み切るには、時間、労力等の観点からハードルが高いと思われ、全ての被害者について、民法の本則的な時効中断方法が実効的に行使されることは、ほとんど期し難い状況にある。
4 原子力損害賠償紛争解決センターへの申立てが速やかな解決になっていないことを考えると、被害者が、損害賠償請求権が消滅時効を援用されないようにと焦って、結局のところ、東京電力の請求書式による請求を事実上強いられ、ひいては、その本意に反して、東京電力の提案通りの解決を受け入れざるを得ないこととなりかねず、これは原発事故の加害者である東京電力が作った請求の在り方に被害者を誘導し、被害実態に即した賠償を妨げることにもつながりかねないものであり、極めて不当な結果に結びつく恐れが大きい。
5 そもそも、原発事故の被害者は突如として、避難をせざるを得なくなり、家族、親戚、友人などと離ればなれになったり、放射能の影響を避けるため、戸外での活動を制限したりするなど、何ら落ち度がないにもかかわらず、言葉には尽くしがたい不便さを強いられているものである。
当会においても、そのような被害者の立場を踏まえ、2011年(平成23年)5月20日、「原子力発電所事故被害者の『生の声』を踏まえた適切な損害賠償及び真の被害回復の実現を求める総会決議」により、適切な損害賠償がなされなければならないと決議したところである。
本件事故により深刻な被害を被った被害者には、この後、自分がどのように生きていったらいいのかの見通しすら持つことができなくなっている人も少なくないのであり、一定時期までに自ら訴えを提起するなどの権利保全措置を取らなければ権利を喪失するという事態は、極めて酷であり、正義に反する。
6 こうした状況からすれば、東京電力が、被害者の損害賠償請求に関し、東京電力から各被害者に対して送付した請求用書類を被害者が受領した日から3年間を請求可能な期間とする方針を決定したとも受け止められるような対応をしていることは、被害者の損害賠償請求権の行使に多大な影響を及ぼすものであり、被害者救済に反するものと言わざるを得ない。
7 当会は東京電力に対し、特別事業計画の変更申請の内容を再考し、消滅時効を援用しないことを、経済産業大臣に対し、特別事業計画の変更を許可しないことを、それぞれ求めるとともに、国に対し、全ての被害者にとって不利益が生じることのないよう、立法を含めた更なる救済措置の検討を重ねて求める。

2013年(平成25年)1月18日
新潟県弁護士会
会長 伊藤 秀夫

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