新潟県弁護士会 – 弁護士会

声明・意見書

2020年02月12日|声明・意見書

歴史的意義を持つ刑事確定訴訟記録の適切な保管を求める意見書

第1 意見の趣旨
 1 法務省は、刑事確定訴訟記録中どの記録を刑事保存記録として保存すべきか
  否か、及び指定解除の是非について審議・監督する有識者会議を設置すべきで
  ある。
 2 各地方検察庁は、歴史的意義のある治安維持法違反被告事件、不敬罪違反被
  告事件など政治犯罪、物価統制に関わる経済犯罪などについての刑事確定訴訟
  記録を国立公文書館に移管すべきである。
 
第2 意見の理由
 1 はじめに
   社会的に重大なあるいは意義のある刑事確定訴訟記録については、当該事案
  を扱った時代の法曹三者にとどまらず、後年の法曹三者にとっても、研究者や
  一般の人々にとっても学ぶべきものがある貴重な歴史的資料である。
   そのため、刑事確定訴訟記録の保存の範囲は、当該事案を扱った時代の法曹
  三者の業務上の要否だけで判断してはいけないのであって、将来における研究
  者などの利用をも十分に考慮し決せられなければならない。また、透明で明確
  な手続と基準のもとで歴史研究等のために活かされる方法が設けられなければ
  ならない。

 2 刑事確定訴訟記録をめぐる現状
   刑事被告事件にかかる訴訟の記録は、訴訟終結後、第1審の裁判をした裁判
  所に対応する検察庁の検察官が保管するものとされている(刑事確定訴訟記録
  法(以下「法」という。)2条1項)。この記録を刑事確定訴訟記録法上「保
  管記録」と呼んでいる(法2条2項)。
   そして、同法2条及び別表により保管記録の保管期間が定められている。
   保管期間経過後については、①保管期間の延長による保管(法2条3項)、②
  再審のための保存(法3条1項)、③「刑事法制及びその運用並びに犯罪に関す
  る調査研究の重要な参考資料」とされた場合の刑事参考記録としての保存(法
  9条1項)、④「特に必要があると認める」ときの特別処分としての保存(記録
  事務規程(以下「規程」という。)11条)、⑤廃棄(規程10条)の選択肢が
  存在する。
   政府は、2017年12月1日に衆議院法務委員会において、刑事参考記録の
  件数が845件であると答弁している。また、2018年4月4日には同じく衆
  議院法務委員会において、2014年以降14件の刑事参考記録について指定が
  解除され、廃棄されたと答弁している。
   また、法務省が令和1年12月25日現在として公表したところによると、う
  ち新潟地検で参考記録として保存されているのは明治32年確定の爆発物取締罰
  則違反、大正7年確定の殺人等、昭和37年確定の強盗殺人等、昭和39年確定
  の強盗殺人等、昭和42年確定の過失致死、昭和56年確定の自衛隊法違反(い
  わゆる反戦自衛官事件)の6件の記録が参考記録として指定されている。
 3 歴史的な刑事確定訴訟記録の保存状況の問題点
   前記のとおり、刑事参考記録の中には指定が解除され、廃棄されたものがある。
  指定及び解除の際には刑事訴訟法や近現代史の研究者など専門家の判断を仰ぐシ
  ステムも整備されておらず、指定解除の判断に合理性があったのかどうかも不明
  なままである。
   また、1945年9月に有罪判決が言い渡された新潟県の高田教会をめぐる治
  安維持法違反被告事件(以下「高田教会事件」という。)の記録も含め、治安維
  持法の運用を明らかにする貴重な記録が必ずしも刑事参考記録としては指定され
  ず、特別処分として保存されているに過ぎない。特別処分で保存された記録につ
  いては保管検察官の判断をチェックする仕組みが明定されておらず(刑事参考記
  録の場合、検察庁の長が法務大臣に上申をして解除を行う。)、刑事参考記録に
  まして特別処分指定解除の合理性が担保されているとは言い難い。
   このように貴重な刑事司法記録がいつ廃棄されるとも分からない状態で保存さ
  れていることは極めて由々しい問題である。
 4 歴史的な刑事確定訴訟記録の利用状況
   刑事確定訴訟記録法9条2項は、「法務大臣は、学術研究のため必要があると
  認める場合その他法務省令で定める場合には、申出により、刑事参考記録を閲覧
  させることができる」としている。
   保管記録の場合、政治犯罪や憲法第3章で保障する人権に関わる保管記録につ
  いては閲覧が義務的となっているのと好対照である。
   通常、記録というものは時の経過とともに公開される範囲が広がるものである。
  それは時が経過するとともに開示による支障が薄くなるからである。国際公文書
  館会議(ICA)の30年原則、外務省の外交記録に関する原則のいずれも30
  年経過後の文書については原則公開とする旨定めている。公文書管理法16条は
  特定歴史公文書等の利用請求を認めるかどうかについて時の経過を考慮するべき
  とするとともに、情報公開法の非開示事由より公文書の利用を拒否できる理由を
  限定しているが、これも同じである。
   よって、保管期間が経過し、記録作成から日時が経過するとかえって記録を閲
  覧しにくいというのは極めて不合理であり、刑事参考記録については必要以上に
  閲覧の範囲が狭められていると言わざるを得ない。
   また、法務省は特別処分記録を閲覧不可としている 。高田教会事件の特別処
  分記録の閲覧等をめぐる新潟地裁平成30年6月4日決定は特別処分記録につい
  ては閲覧が想定されていないとの判断を示している(2018年(平成30年)
  8月21日に最高裁は請求者側からの特別抗告を棄却している。)。
   このように貴重な歴史的記録が利用もされず、死蔵されているのが現状である。
 5 刑事参考記録に関するリストの開示及び参考記録の国立公文書館への試験的移管
   このような状況において、2018年9月28日、法務大臣より刑事参考記録の
  リストを作成し、開示する方針が示され、上記のとおり令和1年12月に公表され
  た。また、刑事参考記録として保存されていた記録については、指定解除時に歴史
  的資料として重要と判断されれば、国立公文書館に試験的に移管するとの方針が示
  された。
   同時に、オウム真理教をめぐる一連の事件の刑事裁判記録が刑事参考記録に指定
  された。
   かかる決定は、前記現状の問題点を解消するものとして一定の評価をすべきであ
  るが、なお以下のとおり課題がある。
 6 刑事参考記録の指定の方法について
   刑事参考記録への指定は、現状検察庁の判断のみで行われている。そのため、研
  究者等が検察庁に請願 し、それを端緒として刑事参考記録に指定される 可能性は
  あるとしても、本来保存を必要とする刑事確定訴訟記録が刑事参考記録に指定され
  る制度的な担保は存在せず、そもそも刑事参考記録への指定について、個々の研究
  者等が逐一検察庁に保管を請願又は事実上要請することも現実的ではない。
   したがって、刑事参考記録の指定については、指定の段階から、検察庁の判断の
  みに委ねるのではなく、適切な専門家の関与による適否を検討する機会を設ける必
  要がある。
 7 一部類型に属する確定記録の国立公文書館への移管
   他方、①明治7年から昭和18年までの民事判決原本(3万6624冊)に関す
  る各国立大学から国立公文書館への移管が完了し、また、②明治8年から昭和37
  年までの民事裁判記録等に関しては、内閣総理大臣と最高裁長官の間で締結された
  「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置について」の定
  め及び移管計画に従い国立公文書館への移管作業が行われている。
   このように重要な民事裁判記録については国立公文書館において保管される道筋
  がつけられている。
   ところが、刑事確定訴訟記録については、戦前のものについても、軍法会議記録
  などごく一部の記録を除き、刑事参考記録を含む刑事確定訴訟記録は各地方検察庁
  において保管されているにとどまる。かかる期間の刑事確定訴訟記録には、治安維
  持法違反被告事件、不敬罪違反被告事件など政治犯罪のように、当時の社会情勢に
  おける司法の役割についての貴重な資料が含まれているのであり、将来において検
  証する意義があることは明らかであり、保存の必要性が極めて高いものである。
   したがって、かかる類型の事件については、刑事参考記録の指定にかかわらず、
  適切に保存される必要がある。
   さらに、刑事参考記録の指定解除後の記録の国立公文書館への移行については、
  民事裁判記録の取扱いに準じ、速やかに恒久的な取扱いとすべきである。
 8 貴重な歴史的記録を活用するために
   以上を踏まえ、刑事確定訴訟記録について、近現代史や刑事法制又は犯罪の研究
  者、弁護士らの有識者から組織される審議会を設置し、戦前戦後を問わず刑事確定
  訴訟記録中どの記録を刑事参考記録とすべきか否かについての基準の作成や当ては
  めについて審議をさせ、刑事参考記録の指定に遺漏がないように、かつ、不適切な
  指定解除がなされないように監督するべきである。
   さらに、歴史的に貴重な刑事確定訴訟記録(治安維持法被告事件、不敬罪違反事
  件など政治犯罪、戦前の市民の生活状況を示す戦前の物価統制に関わる経済犯罪な
  ど)について公文書管理法14条に基づき国立公文書館に移管し、適切に保管をし、
  かつ、公文書管理法の定めるルールのもとで市民の利用に供し、その活用を図るべ
  きである。                              以上

                          令和2年2月12日  
                           新潟県弁護士会
                            会長 齋 藤   裕 

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