新潟県弁護士会 – 弁護士会

声明・意見書

2010年11月22日|声明・意見書

適正な法曹人口及び司法基盤の拡充を求める決議

第1 決議の趣旨

1 当会は、政府に対し、2010年(平成22年)までに司法試験合格者を年間3000人程度にするとした2002年(平成14年)の閣議決定を正式に見直し、当面の司法試験合格者数を年間1500人程度とするよう求める。

2 当会は、政府及び最高裁判所に対し、裁判官及び検察官の増員及び地方裁判所支部管内への適正な配置、民事法律扶助の大幅な拡充など、司法基盤の拡充へ向けた積極的施策を施すよう求める。

3 当会は、これからも司法過疎対策をはじめとした弁護士へのアクセス促進に取り組み、県民の法的需要に応えるため全力を挙げる決意である。

 

第2 決議の理由

1 法曹人口が大量増員されるに至った経緯

(1) 司法制度改革審議会意見

2001年(平成13年)に司法制度改革審議会が政府に提出した司法制度改革審議会意見書(以下「改革審意見書」という。)は、①金融・経済の国際化の進展、②人権・環境問題等の地球的課題や国際犯罪等への対処、③知的財産・医療過誤・労働関係等の専門的知見を有する法的紛争の増加、④弁護士人口の地域的偏在の是正の必要性、⑤「国民の社会生活上の医師」としての法曹の役割の増大などにより、法曹需要が量的に増大するとともに、質的にますます多様化、高度化することが予想されることから、法曹人口の大幅な増加が喫緊の課題であるとして、2010年(平成22年)には司法試験合格者数を年間3000人とすることを目指すべきであるとし、これにより概ね2018年(平成30年)頃までに法曹人口が5万人規模に達することが見込まれるとした。

(2) 司法制度改革推進計画

政府は、改革審意見書を受け、2002年(平成14年)に「司法制度改革推進計画」を閣議決定し、司法試験合格者数を2002年(平成14年)に1200人程度、2004年(平成16年)に1500人程度に増加させ、2010年(平成22年)頃には年間3000人程度を目指すこととした。

(3) 日本弁護士連合会の立場

日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は、改革審意見書の政府への提出に先立つ2000年(平成12年)11月、臨時総会において「法曹人口については、法曹一元制の実現を期して、憲法と世界人権宣言の基本理念による『法の支配』を社会の隅々までゆきわたらせ、社会のさまざまな分野・地域における法的需要を満たすために、国民が必要とする数を、質を維持しながら確保するよう努める。」とし、議論があったものの、改革審の大量増員路線を支持した。

(4) 司法試験合格者と弁護士数の推移

以上の大量増員路線の結果、下表のとおり、司法試験合格者と弁護士数は大幅に増加した。

年度 旧司法試験 新司法試験 合計 修習期 弁護士数 備考
1998 H10 812 812 53 16,305 弁護士数は3/31現在
1999 H11 1,000 1,000 54 16,731 同上
2000 H12 994 994 55 17,126 同上
2001 H13 990 990 56 18,243 同上
2002 H14 1,183 1,183 57 18,838 同上
2003 H15 1,170 1,170 58 19,508 同上
2004 H16 1,483 1,483 59 20,224 同上
2005 H17 1,464 1,464 60 21,185 同上
2006 H18 549 1,009 1,558 旧61、新60 22,021 同上
2007 H19 248 1,851 2,099 旧62、新61 23,119 同上
2008 H20 144 2,065 2,209 旧63、新62 25,041 同上
2009 H21 92 2,043 2,135 旧64、新63 26,930 同上
2010 H22 2,074 2,074 旧65、新64 28,891 弁護士数は10/1現在

(5) 増員ペースと法曹人口の予測

改革審意見書のように年間3000人が司法試験に合格すると、法曹人口は、2018年(平成30年)で約5万5000人となった後もさらに増加し続け、2056年(平成68年)年で約13万5000人となり、概ね増員数と自然減が同一となって均衡すると見込まれている。

また、ここ数年と同様の年間2100名から2200名が司法試験に合格すると、2020頃(平成32年)頃に法曹人口が約5万人に達すると見込まれている。

 

2 大量増員の前提であった法的需要の動向

(1) 法的需要の動向

改革審意見書は法曹需要が量的に増大すると予想していたが、現実には想定されていたほど需要は伸びておらず、今後、飛躍的に法的需要が伸びるとの予測はできない。

ア 裁判事件数

最高裁判所の司法統計によれば、訴訟事件数は、平成15年をピークとして消費者金融業者に対する過払金返還訴訟を除いた事件数は減少する一方であり(平成15年の全事件数は約611万件、平成19年が約454万件と事件数は減少傾向にある。)、過払金返還訴訟も既に立法的措置がなされており、急速に収束に向かうことは明らかである。

また、刑事事件については、一部の司法過疎地域を除けば、被疑者国選事件及び裁判員対象事件への対応についても、現在の法曹人口で不足している状態にはない。

イ 裁判官及び検察官数

司法試験合格者の急増にもかかわらず、裁判官・検察官の定員は従来とほとんど変わっておらず、全国的に裁判所支部の統廃合も進み、裁判所の数自体が従来より減少している。このことは、裁判所や検察庁において、大幅な増員を必要とするだけの事件数の増加が見られないことを示している。

ウ 企業・官公庁・地方自治体における法的需要

日弁連の調査によれば、企業・官公庁・地方自治体における弁護士の需要は少なく、今後も大幅な需要増加は考えにくい。

また、裁判官への弁護士任官もごく僅かにとどまり、日弁連臨時総会決議が目指していた法曹一元にはほど遠い現状がある。

エ 法律事務所の求人状況

遅くとも、2006年(平成18年)頃から、はっきりと弁護士の就職難の問題が指摘されるようになり、日弁連や当会を含む各弁護士会は、就職説明会等の取組みを積極的に行ってきた。

その結果として、前倒しで採用した法律事務所も多く、新規求人数は大都市部・地方を問わず目立って減少してきている。就職しても給与保証のない形態(いわゆる「ノキ弁」)や、いきなり独立開業を余儀なくされる場合(いわゆる「即独」)も確実に増加の一途を辿っている。

一般的に、新規求人数と当該業種の需要見込みは相関すると言われるから、このような就職難の状況は、現実の法的需要が乏しいことを示している。

オ 法律相談の件数

日本司法支援センター(法テラス)のコールセンターへの架電数の延びは予想より少ない旨が報告されている。

また、法テラス設置の影響も大きいと思われるが、各弁護士会の設置する法律相談センターにおける、法律相談件数の減少傾向も顕著である。

(2) 法曹一人あたりの国民数

ア 諸外国との比較

改革審意見書は、法曹一人あたりの国民の数につき、日本(約6300人)は、アメリカ(約290人)、イギリス(約710人)、ドイツ(約740人)、フランス(約1640人)と比較して少ないことを大幅増員の根拠としているが、各国で裁判制度、訴訟件数、法律扶助制度、司法予算の額、法曹資格取得後のキャリア選択の幅、国民の法意識、隣接法律専門職種の有無・人数等といった諸事情は大きく異なるのであるから、単純な人口比較は意味をなさない。

イ 隣接法律専門職の位置づけ

わが国では、司法書士、弁理士、税理士、行政書士、社会保険労務士、土地家屋調査士等の隣接法律専門職(諸外国でも独立の職種とされる公認会計士は除く。)の人口は、2008年(平成20年)4月現在で約18万6000人であり、これらを加えて比較した場合、わが国の法律専門職一人あたりの人数は、諸外国と比較してことさら不足しているとは言えない。

改革審意見書では、これら隣接専門職を「法曹」とは位置づけないものの、当面の法的需要充足のため、限定された訴訟代理権やADR(代替的紛争処理制度)手続き代理権が隣接法律専門職に付与されており(現に、簡裁代理権ある司法書士が約1万2700人、特定侵害訴訟代理業務の付記を受けた弁理士も約1970人に達している。)、現実の活動実態を見れば、債務整理、相続、知的財産権等の、刑事事件を除くあらゆる法的領域において一定の役割を果たしている。

ウ 将来の人口や経済成長の予測

また、わが国は既に少子高齢化社会に突入しており、2005年(平成17年)度から人口は減少傾向にあって、将来における日本の人口減少は確実である。法人・事業所数の推移を見ても2001年(平成13年)度から減少傾向にあり、日本の将来のGDP予測でも伸び率は微増に止まるとされている。

こうした国勢の予測から見ても、改革審意見書が前提とした法的需要の大幅増大は、あまりに楽観的で、実証的・数値的根拠に乏しいものであったと言うほかない。

 

3 法曹人口の急激な増員による弊害

(1) 弁護士の質の低下

ア 法科大学院志願者数の激減

法科大学院の志願者数が制度発足当初から現在に至るまで年々減少の一途をたどっている(法科大学院入学のための適性試験の志願者数は、大学入試センター実施のものについては、平成15年度の3万9350名から平成22年度は8650名と約22%に、日弁連法務研究財団実施のものについては、平成16年度の1万3993名から平成22年度の7829名と約56%に、それぞれ激減している。なお、両試験は併願することができるので法科大学院志願者の実数は不明であるが、多くの受験者は両試験を併願しているものと見られる。)。また、進学者に占める社会人入学者の割合も減少し続けている。

このような現象が生じた原因については、司法試験の合格者数や合格率が当初構想よりも下触れしたことや、司法試験受験回数の制限、法科大学院の高額な学費や司法修習生の給費制の廃止による経済的リスクなど、法曹になるまでの過程における負の要因が影響していることを否定できないが、決してそれだけではなく、前記した司法修習生の厳しい就職状況を知った上での法曹離れという側面も大きいと考えられる。

なぜなら、法科大学院に進学して貴重な時間と高額の学費を掛けて司法試験に合格したとしても、弁護士として将来に希望の持てる職業生活が思い描けないのであれば、多様で優秀な人材があえて司法試験に挑戦しようと思わなくなっても不思議ではないからである。

イ 司法修習の短期化と二回試験の大量不合格

従来、司法修習の期間は2年間であったが、現在は1年間に短縮されただけでなく、実務家としての基礎を学ぶ司法研修所での前期修習もなく、いきなり実務修習が開始され、弁護修習は僅か2か月間に過ぎない。

司法試験合格者の大量増員と修習期間の短縮による司法修習生の質の低下は、司法修習修了試験(いわゆる「二回試験」)において、平成18年以降かつてない大量の合格留保者ないし不合格者を生じさせていることにも如実に表れている。最高裁判所事務総局から2008年(平成20年)に出された報告書によれば、二回試験で不可とされた答案については、実務法曹として求められる最低限の能力を習得しているとは到底認められないこと、司法修習生間の実力にばらつきが出ており、下位層の数が増加しているように感じられる旨が報告されている。当会の弁護修習担当者からも修習期間短縮によって修習が杜撰になっているという声が聞かれる。また、従来よりも知識や訓練が不十分なまま弁護士の職につく者が増加していることは、これら新人弁護士に接する既存の法律実務家から少なからず聞かれる声である。

ウ 弁護士登録後のOJTの困難化

これまで、大半の弁護士は、先輩弁護士の事務所に所属してともに案件処理をしていくことで、その体験を通して業務遂行能力や弁護士倫理等の弁護士として必要な能力を養成してきた。このようなオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)は、単なる座学や研修などで容易に代替できない伝統的な弁護士養成方法とされてきたものである。

しかし、昨今の合格者大量増員によって、司法修習生の就職難は年々深刻化しており、大都市部を中心に既に修習終了後すぐに独立する弁護士(いわゆる「即独」弁護士)も目立つようになっており、地方である新潟県内でもかかる事態が常態化しても何らおかしくない状況にある。

当会は、本年、即独弁護士への支援制度を設けたものであるが、OJTが不十分な弁護士が、不適切な法的サービスを提供することが強く懸念されているところである。

(2) 市場原理の限界

以上のような、大量増員による弁護士の質の低下については、競争の中で質の劣る弁護士は市場原理によって自然淘汰されるとの考えもある。改革審の審議に際して、法曹人口は「法務サービスに対する市場の需要にしたがって決められるべきだ」と意見表明したアメリカ政府もこのような考え方に立っていた。

しかし、①顧客が弁護士を選択するための適切な情報を提供する仕組みの確立は難しく、情報収集能力のある大企業が継続的に依頼することを前提とする企業法務の分野は別として、弁護士へ依頼するのが一生に一度あるかないかの一般市民にとって弁護士の優劣を判断して依頼することは困難であり、いったん質の劣る弁護士によって生じた不利益は取り返しがつかないこと、②市場原理に委ねた場合、弁護士も職務遂行において経済効率優先となることが懸念され、真に依頼者の利益をもたらすのか疑問であること(実際、弁護士人口が多いアメリカにおいても弁護士報酬が低廉化するという実情にはないようである。)、③十分な能力のない、又は経営に行き詰まった弁護士が市場で淘汰され、市場から直ちに退場する制度的保証はないことなどから、かかる市場原理を貫徹することが実際に依頼者の利益になると単純に考えるのは、幻想に過ぎない。

弁護士人口を市場原理に委ねた場合、経営に行き詰まった弁護士が生計の糧を得るために、従来ならば避けるべきとされた紛争解決になじまない事件、解決の見通しがない事件、又は正当でない利益を求める依頼者の依頼を受けるなど「供給」が「需要」をつくる病理現象が生ずることも想定しなければならない。

逆に、これまで弁護士が積極的に取り組んできた公害事件、薬害事件、えん罪事件、少年事件、消費者事件、障害者問題や差別問題などの公益的活動をする経済的余力や精神的土壌が失われることも懸念される。

そして、そのことは、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする弁護士(弁護士法1条)のあり方を変容し、ひいては弁護士という職業全般への信頼を左右しかねない問題である。

さらに、弁護士という職業のあり方の変化は、職能団体かつ自治団体でもある弁護士会における統合性の契機をいっそう希薄にさせ、最悪の場合、イギリスにおいて生じたように、弁護士自治が失われる事態すら起こりかねない。

当会は、この度の司法改革によって自由・公正な「法化社会」が確立されることを目指すものであるが、それを超えたアメリカ型の訴訟社会になることは望まず、また、日本国民が望んでいるとも考えていないものである。

 

4 適正な法曹人口の検証の必要性と当面の司法試験合格者数

(1) 適正な法曹人口の検証の必要性

以上から、改革審意見書の抽象的理想やアメリカ型市場原理主義を離れた観点から、あらためて日本社会の現実の社会状況を見据えた適正な法曹人口を検証し、その上であるべき「法化社会」を実現するための新たな法曹人口政策が確立されなければならないことは、今や明らかである。

当会は、検討にあたって想定されるべき、あるべき「法化社会」とは、次のようなものであると考えている。

ア 法的需要に対応し、これを充足できる社会

イ 弁護士が社会の信頼を得て良質な法的サービスを提供できる社会

ウ 法的需要と弁護士人口のバランスのとれた社会

(2) 当面の司法試験合格者数

適正な法曹人口の検証は焦眉の課題であるが、当面の対応としては、司法試験合格者数を年間1500名程度とすべきである。

その根拠は、①年間1500名程度であれば、前期修習の実施など司法研修所における充実した修習が可能であること、②同程度の合格者数のときは司法試験合格者の就職難も現在ほど深刻ではなかったこと、③他方で、現在の法科大学院生の合格者数への期待を無視して急激な合格者減員をすることは相当でないこと、④仮に、法曹人口5万人規模が適正としても、審議会意見が予測した2018年度(平成30年度)の到達年度が5年ほど遅れるだけであり、かつ法曹人口はその後約6万5000人(うち弁護士人口は約5万8000人)で増減が均衡するのであって、増員目標自体の下方修正ではなく増員目標達成のペースダウンに過ぎないこと、などである。

その上で、政府の目指す法曹人口5万人規模の是非について、現実に司法改革を推進してきた過程において、それだけの法曹人口を必要とするだけの法的需要が顕在化しておらず、将来そのような法的需要が顕在化する見通しも乏しいというわが国社会の現実を直視して、早急かつ抜本的に見直されるべきである。

 

5 司法基盤の拡充の必要性

(1) 司法基盤の整備状況

改革審意見書は、「大きな司法」を目指して、政府に対する司法基盤の整備を求めるものであったが、現実の司法基盤の整備状況は、かかる方向性とはほど遠い現状にある。

ア 司法予算

裁判所予算は、国家予算の約0.4%に過ぎない。国家財政は厳しいが、予算をかけずに「大きな司法」を実現することは不可能である。

イ 民事法律扶助

わが国の民事法律扶助の予算は、先進諸外国に比べ極めて低額である(イギリスの80分の1、ドイツの18分の1)うえ、対象層も限定的である(所得の下から2割程度であるが、欧州平均では下から5割程度とされる。)。また、生活保護受給者を除き、原則全額償還することになっている(多くの国では原則給付制とされる。)。加えて、わが国の法律扶助事件の報酬単価は一般的な相場水準よりも低いのが実情であり、弁護士の経営基盤を支えるのには十分とは言えない。民事法律扶助の拡充は、経済的に裕福でない層の法的需要を受け止めるために欠かせない施策である。

ウ 国選弁護費用

被疑者国選弁護や裁判員裁判の実施によって、弁護士の刑事弁護業務が拡大したが、国選弁護報酬の水準は相変わらず低く、弁護士の経営基盤を支えるには不十分なままである。

エ 裁判官・検察官の増員

司法試験合格者の急増にもかかわらず、裁判官・検察官の定員は従来とほとんど変わっておらず、全国的に裁判所支部の統廃合も進み、裁判所の数自体が従来より減少している。

組織の合理化のために、裁判官が常駐しない裁判所支部や検察官の常駐しない検察庁支部も存在しており、司法過疎対策に逆行しているとさえ言える。

(2) 弁護士や弁護士会の需要増大へ向けた努力

ア 個々の法律事務所の取組み

弁護士の大量増員時代を迎え、個々の弁護士はそれぞれ従来にない顧客開拓や営業努力を始めるようになっている。

例えば、ウェブページ等での各種広告や休日相談・無料相談等のサービス拡充や、法人化による支所設置等は、利用者の弁護士へのアクセスを容易にし、利便性を向上させたものと評価できる。

イ 弁護士会の取組み

日弁連及び当会を含む各地の弁護士会においても、TVやラジオCMにおける広報や各種無料相談の実施に加え、中小企業向け相談窓口の設置や、企業、自治体への弁護士採用の呼びかけなど各種の取組みを行ってきた。

ウ 弁護士のみの努力の限界

しかし、これらの取組みにもかかわらず、一過性の過払金返還請求を除けば、法的需要に顕著な伸びが見られなかったことは、上記したとおりである。制度的な基盤の拡充を伴わない、弁護士のみの努力によって、法的需要を飛躍的に拡大させることは、現実的でないことがはっきりしてきた。

(3) 司法基盤の拡充の必要性

潜在的にある国民の法的需要を現実化させるための施策としては、以下のものが考えられる。

ア 裁判官及び検察官の増員と支部への適正な配置

イ 法律扶助の償還免除対象の拡大や弁護士報酬水準の向上

ウ 権利保護保険の普及推進

エ 提訴手数料(印紙代)の低額・定額化

オ 低すぎる慰謝料等の賠償制度の見直し

カ 証拠収集手段の拡充

キ クラスアクション(集団訴訟)の拡充

ク 民事執行制度の強化

ケ 行政訴訟制度の一層の改革

コ IT等通信手段の積極的活用等による裁判所の利便性向上

当会は、政府及び最高裁判所に対し、これらの司法基盤の拡充へ向けた積極的施策を施すよう求めるものである。

 

6 司法過疎対策をはじめとした弁護士へのアクセス促進に向けた取組み

(1) 偏在・過疎問題と法曹人口

改革審意見書は、「法の支配」を全国あまねく実現するための弁護士の地域的偏在の是正(いわゆる弁護士「ゼロ・ワン地域」の解消)の必要性を法曹人口大量増員の一つの根拠としていた。

しかし、現実には弁護士人口が大幅に増員したにもかかわらず、増員分の大半は大都市に就職しており(東京三弁護士で50%前後、大阪、名古屋、福岡、横浜の各弁護士会を加えて約75%に上る。)、人口増が直ちにゼロ・ワン地域の解消に結びついたわけではない。また逆に、ゼロ・ワン地域の解消のためには、弁護士人口が大幅に増員するほどの人数は必要でない。

(2) 日弁連による司法過疎対策の成果

日弁連は、2000年(平成12年)の石見ひまわり基金法律事務所の開設を皮切りに、全国の弁護士過疎地域に多数のひまわり基金法律事務所を設置したほか、弁護士過疎地に赴任する弁護士を養成する公設事務所(偏在対策拠点事務所)の開設支援、弁護士過疎地に赴任する弁護士を養成する事務所の事務所拡張費用・養成費用支援、弁護士過疎・偏在地への赴任のための準備支援や独立開業支援を行ってきた。

弁護士の人口の増加に加えて、こうした取組みも後押しした成果として、2008年(平成20年)には、弁護士のいない「ゼロ」地域は解消され、弁護士一人の「ワン」地域もほぼ解消するに至っている。

(3) 当会の司法過疎対策等の取組み

ア 県民アンケートによる法的需要の検証

当会は、新潟県民の法的需要の実情を検証するため、2008年(平成20年)8月から10月にかけて、県内の一般市民4000名、事業所2000社、市町村長・県市町村議員767名全員、県市町村の相談窓口担当者101先を対象としたアンケート調査を実施し、2009年(平成21年)2月に「新潟県内における弁護士ニーズ調査報告書」としてまとめた。

それによると、県民は、居住地周辺における現在の弁護士数が足りているかどうかという質問について、「分からない」が78.1%、「足りている」が4.0%、「不足している」が17.0%との回答であり、支部地域で「不足している」との割合が相対的に高かった。司法試験合格者を増員させる計画については、約1000名から回答があり、全体の約半数が肯定的回答、約4分の1が否定的ないし懐疑的回答であったが、肯定的回答にも資質の維持・向上と、地域偏在の改善を条件・希望とするものが、それぞれ約2割、気軽に相談できるようになることを希望するものが約1割あり、必ずしも無条件で増員を肯定しているわけではなかった。県民からは、弁護士を利用しやすくなるために、無料の法律相談や電話相談を希望する声が多かった。

事業者については、過去に弁護士を利用したことがある事業所が43.7%と半数以下であり、顧問弁護士がいる事業者は16.7%、顧問契約を結ばない理由としては「弁護士を必要とする仕事がない」が63.8%であった。企業内弁護士の雇用意思がある企業は約20社見られたが、その後実際に企業内弁護士を採用した県内企業はなく、弁護士に対する利用意欲は必ずしも高いとは言えない結果であった。

市町村長・議員については、県内全体の弁護士の人数は、「少ない」とするものが61.5%であり、約半数は弁護士の過疎・偏在が問題であるとしている。司法試験合格者の増員については、「年間3000名は多すぎるが、増員自体には賛成」が30.9%と最も多く、「年間3000名に増員する方針に賛成」が21.7%、「現在の合格者数でよい」が15.3%、「現在の合格者数より、少なくてよい」は1.2%、「分からない」は22.9%であった。現状維持又は少なくてよいとの回答の理由は、「大量合格による質の低下が懸念されるから」が68.3%、「弁護士間の過当競争によってサービスの低下が予想されるから」が31.7%、「現在の合格者数でも市民のニーズは充足されているから」が17.1%であり、増員するとしても、質の低下や過当競争が生じないことを前提にした回答と言える。

県内相談機関の担当者については、担当地域における弁護士の数は「少ない」が50.8%、「特定の地域に偏っている」が76.1%と過疎・偏在のを指摘する声が目立った。ここ数年の相談件数については「ほぼ横ばい」が62.7%と相談件数が飛躍的に増えるとの認識は見られなかった。法曹人口の大量増員の良い点・問題点は、良い点では「弁護士費用が安くなる」が47.8%、悪い点では「何でも裁判という風潮が強くなる」が47.8%で高く、弁護士の質については「向上する」が16.4%、「弁護士の専門的知識・技術の提供が困難となる」が19.4%と質の低下を懸念する声の方がやや大きかった。

以上のアンケート結果によると、弁護士増員を希望する県民の声が多数を占めていることが分かった。そこで、当会の第2期地域司法計画(法曹人口)検討委員会は、こうした県民アンケートの結果も踏まえて慎重に検討を重ねた結果、県民の法的需要に対し適切かつ十分に対応しうる弁護士数として、会員300名の新潟県弁護士会を作り上げることを提言し、その目標達成時期を2020年(平成32年)とした。

イ 県内の弁護士数の推移と「ゼロ・ワン地域」の解消

当会全体及び本庁・支部別の会員数の近年の推移(下部添付資料)は、次のとおりであり、弁護士数の大幅な増員と司法過疎の解消が進んできたことが分かる。

 

潟県においては、新発田支部及び佐渡支部がいわゆる「ゼロ・ワン」地域であったが、両支部とも現在では3名以上の弁護士が開業しており、法的需要に応えている(現在、ひまわり基金公設事務所が新発田と佐渡に、法テラスの4号事務所が佐渡にそれぞれある。)。

また、現在、地家裁支部のない柏崎市、小千谷市、南魚沼市でも、各1名の弁護士が開業しており、地域の法的需要に応えている。

さらに、その他の支部(長岡支部、高田支部、三条支部)管内でも弁護士が着実に増加しており、支部エリアにおける弁護士不足感は急速に解消されてきている。

これに対し、県内の裁判所は、昭和63年には巻、小千谷、直江津の各簡裁が、平成2年には村上、柏崎、六日町、糸魚川の各地家裁支部がそれぞれ廃止されて以降、拡充の動きはなく、検察庁については、常駐検事(とりわけ正検事)を置かない支部があるなど、国が司法過疎対策に十分に取り組んでいるとは言えない。

ウ 弁護士へのアクセス促進に向けた取組み

当会では、上記したアンケートにおける無料相談や電話相談を求める県民の声に応えるため、近年、多重債務電話ガイド及び一般無料電話ガイドを常時設置して県民が気軽に弁護士に相談できるようにしているほか、各市町村の巡回法律相談の開催やテレビCMやラジオ番組出演等の広報の実施、小・中・高校への弁護士講師派遣、各種シンポジウム開催など、県民が弁護士を身近に感じ、必要なときにアクセスしやすいように各種の取組みを行っており、県民の弁護士へのアクセス促進に向けた努力を続けている。

エ 合格者数を1500人名した場合の県内弁護士数の試算

ところで、司法試験合格者を当面1500名とした場合に、県民の弁護士へのアクセス促進に支障となることはないであろうか。

試算によれば、2012年以降の司法試験合格者数を1500名とし、当会と全国の会員数の比率が今後も一定であると仮定した場合、当会の会員数は2020年には288名、2030年には356名、2040年には415名となり、おおよそ430名前後で増減均衡することが見込まれる。仮に、合格者数を1000名として同様に試算した場合でも、2020年には262名、2030年には297名、2040年には322名となって、およそ320名で増減均衡することが見込まれる。いずれにせよ、将来的に会員数300名規模の新潟県弁護士会は、着実に実現することになる。

したがって、合格者数を1500名としても、合格者数の減少という見かけ上の印象とは異なって、依然として現在の弁護士数を倍増させる大量増員計画であることに変わりはなく、今後とも県民の弁護士へのアクセス促進に向けた増員は進んでいくのである。

 

7 結論

以上から、当会は、(1)政府に対し、司法試験合格者を年間3000人程度にするとした2002年(平成14年)の閣議決定を見直し、当面の司法試験合格者を年間1500人程度とすること、(2)政府及び最高裁判所に対し、裁判官及び検察官の増員や民事法律扶助の大幅な拡充など司法基盤の拡充へ向けた積極的施策を施すことを求めるとともに、(3)これからも司法過疎対策をはじめ弁護士へのアクセス促進に取り組み、新潟県内における県民の法的需要に応えるため全力を挙げる決意であることをここに表明する。

県内の弁護士推移.pdf

2010年(平成22年)11月19日
新潟県弁護士会臨時総会決議

連絡先・交通アクセス

新潟県弁護士会 新潟相談所

新潟県弁護士会

〒951-8126
新潟県新潟市中央区学校町通1番町1番地
TEL.025-222-5533TEL.025-222-5533詳しい情報を見る

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