新潟県弁護士会 – 弁護士会

声明・意見書

2007年08月7日|声明・意見書

「被災者生活再建支援制度見直しの方向性について」に対する意見書

内閣府御中

新潟県弁護士会会長 藤田 善六

はじめに

2004年10月23日、新潟県中越地方を襲った新潟県中越地震では、多数の住宅が損壊し、未だに多くの住民が生活再建もままならず、途方にくれている。

さらに、2007年7月16日、再度、新潟県中越地方を襲った新潟県中越沖地震でも多くの住民が、住宅の損壊をはじめ深刻な人的・物的被害を受けた。中には、二度の地震で重複して被害を受けた住民も少なくない。

新潟県弁護士会は、法律相談等を通じて被災者と直接接する立場から、新潟県中越地震直後より、被災者再建支援制度を改正し、もって住民の生活再建を援助すべき旨を訴えてきたが、これまで改正はなされなかった。

被災者生活再建支援制度について総合的な検討を行うため、貴庁に「被災者生活再建支援制度に関する検討会」が設置され、7月には「被災者生活再建支援制度見直しの方向性について―被災者生活再建支援制度に関する検討会中間報告」(以下「中間報告」という)が作成・公表された。

そこで、中間報告に対し、被災者生活再建支援制度、特に居住安定支援制度の改正の問題に限定して、以下のとおり意見を申し述べる次第である。

第1 意見の要旨

現在、被災者生活再建支援制度においては、被災者生活再建支援法施行令第3条により支援金の使途が具体的に定められているが、第3条は住宅本体の補修・改築・新築を支援金の使途として認めていない。よって、現行の被災者生活再建支援法においては、住宅本体の改築・新築のために支援金を支出することができないことになっている。

しかし、それでは被災者による自立した生活の開始を支援することを目的とする被災者生活再建支援法の目的が十分に達せられない。

そこで、被災者生活再建支援制度における支援金について住宅本体の補修・改築・新築(以下「改築等」という。)のためにも支出し得ることとすべきである。また、支援金の支出額については、生活再建が可能となるよう適宜増額を行うべきである。

第2 意見の理由

1.住宅再建支援の公益性

阪神大震災を例にとれば、神戸の定住人口が被災前の1994年12月の152万人から、被災後の1995年10月には142万人と、短期間で一挙に10万人も減少したが、「10万人の人口減少は、地域全体の購買力や担税力の低下という深刻な影響をもたらした。企業サイドから見れば稼働率の低下、売上の減少・伸び悩みの原因となった。特に被害の大きかった長田区や灘区では人口の減少率が2割を超えたため、震災後に再開した小売商店街・市場では売上がついに回復せず、経営が立ち行かなくなる商店が少なくなかった。また、こうした状況を目の当たりにして、店舗の再開をしり込みする動きも強まった」との指摘がされている(エコノミスト2005年1月18日号所収の額賀信「教えてくれた『人口減少社会』の深刻」)。

このような人口減少の大きな要因のひとつが、住宅再建が進まなかったことにあったであろうということは、容易に推察されるところである。つまり、住宅再建の問題は、個々の住民の問題であるだけでなく、地域経済・社会に大きな影響を与える問題であり、公益的な問題なのである。

そして、住宅再建の地域経済・社会に与える影響は、神戸のような都会においてより、新潟県中越地方のような過疎地域において、より大きいと考えられる。多くの家屋が損壊し、しかも被災者の多くは稼得能力の高くない高齢者であったような場合、その生活の再建のためには被災者生活再建支援制度を活用した支援が不可欠であり、そのような支援がなく住宅再建が進まない場合には、地域社会そのものが消滅しかねない。新潟県中越大震災や新潟県中越沖地震と被災者の状況の類似する能登半島地震(3月25日発生)では、現実に懸念されているところである。

中間報告3・(1)・1)・1では、居住関係経費を住宅本体の建築などにも使いうるようにすることの趣旨・利点として、「大きな災害から地域社会が復興するためには被災者の住まいの再建が不可欠であり、この点に住宅再建の公共性を認め、住宅本体への支援を行うべきとの考え方」が示されているが、上記したところに照らし妥当というべきである。

逆に、中間報告3・(1)・1)・1では、指摘される問題点として、「住宅は典型的な個人財産であり、その保全も自己責任によるべきであって、税金による支援を行うべきではないとの考え方との矛盾」があげられている。しかし、上記した住宅再建支援の公共性を軽視したものであり、失当である。

2.住宅再建支援法によらない生活再建の可否

中間報告3・(1)・1)・1であげられた自己責任を強調する考え方は現実的でもない。すなわち、自己責任を強調するだけでは生活再建はおぼつかないのである。

まず、地震保険の契約金額は火災保険の契約金額の30~50パーセントの範囲内とされているので、被災者が地震保険に加入していたとしても、それだけでは住宅を再建することはできない。

また、住宅ローンが残っている住宅が損壊した場合、公的支援がなければ、被災者は新たな住宅ローンに頼らざるをえず、二重ローン地獄に陥ることになる。

新潟県等では、被災者に対して住宅本体の再建・補修に必要な費用を支援する制度を設けてはいる。しかし、例えば新潟県では最大100万円であり、住宅再建にとっては不十分である。多くの自治体ではそのような制度すら整っていない。

以上より、被災者が住宅再建をするために、被災者生活再建支援法による住宅本体の改築等のための支援金支出が必要となる場合が少なくないと考えられるのである。

3.大規模災害発生の際に支援金の支出が可能か

中間報告3・(1)・1)・1は、指摘される問題点として、「大規模災害発生時には、インフラ等の復旧にも莫大な資金が必要となるが、個々人の住宅本体にまで支援の手当をできるか疑問」との点が指摘されている。上記指摘は、首都直下型地震により多くのインフラや住宅が損壊するような場合を想定していると思われる。

しかし、東京等の大都市が大地震に見舞われた場合に、住宅再建支援に対して十分な拠出をせず、多くの被災者が生活再建をすることができなかった場合、その都市の地域経済・社会が大きなダメージを受けるだけではなく、日本経済・社会全体が大きなダメージを受けることになるのである。むしろ、首都直下型地震等の大規模災害の場合においては、住宅支援の必要性が高いといえ、無理をしてでも支援金の支出を行うべきものと考える。

また、国や自治体が個人の住宅の耐震改修がなされるよう強力に誘導を行うことにより、地震の際に損壊する住宅を減少させ、もって実際に支援金を支出しなければならない金額を大幅に減額させることができる。

以上より、大規模災害の場合においても、住宅本体の改築等のための支援金の支出は必要であり、可能であると考える。

4.支援金の支出が悪影響を及ぼすか

中間報告3・(1)・1)・1は、指摘される問題点として、「災害発生後の支援措置を過度に充実すると、住宅の耐震化等の自助努力を阻害し、最も重要な生命・身体の安全が図られなくなるおそれがある。また、住宅所有者の自助努力たる地震保険への加入等に対する意欲を阻害するおそれがある」との点をあげている。

しかし、耐震化は命を守るためになされるものであり、支援金の有無とは直接関係がない。住宅本体に支援金を支出するようにしたからといって耐震化の進展を阻害するとは思われない。

また、地震保険の点については、住宅本体の改築等に支援金を支出し得る扱いとしている各都道府県における地震保険の付帯率を調査しても、そのような制度のない自治体におけるよりも付帯率が低い等の事情は全くなく、住宅本体の改築等に支援金を支出することにより地震保険に加入しなくなるとの因果関係がないことが明白である。

以上より、支援金を住宅本体の改築等に支出し得るようにすることにより、耐震化が進まなくなる、地震保険の加入率が下がるとの主張には根拠がないことが明白である。

5.居住安定支援制度による支給の低迷

現行の居住安定支援制度が極めて使いにくいものとなっている事実も直視しなくてはならない。

2007年3月に全国知事会災害対策委員会に提出された「被災者生活再建支援制度の施行状況調査結果」によると、生活関係経費の支給率が92.9パーセントであるのに対し、居住安定支援制度の支給率は54.1パーセントと極めて低調なものとなっている。

このことは、居住安定支援制度に欠陥があることを意味するものであり、早急な改正が要請されるところである。

6.結論

上述したとおり、被災者生活再建支援制度を、住宅本体の改築等に支援金を支出することができるように改正することが被災者の生活再建のために必要である。

さらに、2004年12月に、世論調査会が行った防災全国世論調査では、「地震や災害で住宅が壊れた場合、国は住宅の新築や修理の費用を支援しません。『個人の資産である住宅に公費を投入すべきではない』との考え方からですが、あなたはどう思いますか。次の中からひとつだけお答え下さい」との質問がされ、回答は「支持する26.2パーセント、支持しない67.0パーセント、分からない・無回答6.8パーセント」となっており、多くの国民が住宅本体の改築等に支援金を支出することができない現行の被災者生活再建支援制度に対して批判的であることが明らかとなった。

多くの国民の意思も尊重し、早急に被災者生活再建支援制度を改正し、住宅本体の改築等に支援金を支出し得るよう、かつ、支援金を増額するよう最終報告をとりまとめていただきたく意見を申し述べる次第である。

以上

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