新潟県弁護士会 – 弁護士会

声明・意見書

2010年11月22日|声明・意見書

取調べの全面可視化を求める決議 決議理由

1 はじめに

当会は、裁判員裁判の実施を目前に控えた2008年(平成20年)2月29日の臨時総会において、「取調べ全過程の録音・録画の実現を求める決議」を可決し、さらに、新潟地方裁判所での裁判員裁判第1号事件を同年3月に控えた2010年(平成22年)2月26日の臨時総会において、「取調べの全面可視化の早期実現を求める決議」を可決し、取調べの全面可視化を求めてきた。
しかるに、その後、本年6月に公表された法務省の「被疑者取調べの録音・録画の在り方について~これまでの検討状況と今後の取り組み方針~」は、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の実現を大きく後退させる内容のものであり、全面可視化の立法作業は遅々として進まない。そうした中で、厚生労働省の元局長事件に関連して、大阪地方検察庁特捜部の元局長の部下ら本件関係者に対する強引な取調べによる虚偽の調書の作成やフロッピーディスクの改ざん等の違法な捜査が明らかとなり、冤罪が作り上げられていく過程が明らかとなった。また、大阪府警の警部補による暴力的脅迫による取調の事実も明らかとなった。
こうした状況に鑑みれば、取調べの全面可視化を実現することが急務であることが証明されるとともに、取調べの全面可視化を求める市民の声はかつてない高まりを見せており、当会も、これを機に取調べの全面可視化の実現のための取り組みを強化すべきであることから、本総会で、再度決議する意義がある。
2 可視化を巡る政治情勢

(1) 法務省方針の経緯
今回の法務省方針は、取調べの可視化を選挙公約とし、「録音・録画の方法による被疑者取調べの可視化を実現する」と表明する千葉景子法務大臣のもと、政権交代直後の2009年(平成21年)10月に、政務三役を中心として設けられた勉強会及び加藤公一法務副大臣を座長とするワーキンググループの検討を踏まえた、取調べの可視化に対する法務省の見解である。
また、民主党は、これまで2回にわたり参議院で、捜査機関の取調べの可視化を義務づけ、その義務に違反した調書の証拠能力を否定する旨の刑事訴訟法改正法案を提案・同院で可決している(その後、いずれも廃案となっている)。
他方で、氷見事件、志布志事件に続き、足利事件でも密室取調べにおける虚偽自白が問題とされ、裁判員裁判の始まりとともに取調べの可視化の必要性が広く市民の間に認識されるに至った。
こうした情勢のもとで、法務省方針が公表されたものであり、取調べの可視化実現を強力かつ具体的に推進するものと期待された。しかしながら、公表された法務省方針には、取調べの可視化を実現させようとする強い意志が見られず、かえって「録音・録画を行うべき取調べの範囲についても、さらに検討を要する」などと取調べの可視化の実現を大きく後退させるものとなっている。
(2) 法務省方針の問題
ア 法務省方針に示された基本姿勢は、捜査機関の反対論を投影したものとなっており、過去多くの冤罪事件を生み、現在でも産み続けている密室取調べに対する反省にはまったく触れず、取調べの全面可視化を求める市民の声にも耳を傾けていない。
イ 我が国の刑事裁判は、捜査段階において作成される自白調書に大きく依存している。しかし、自白調書は、弁護士の立ち会いを排除し、外部から連絡を遮断された密室で作成され、取調べの過程で何が行われたのかを信頼性の高い証拠で検証することがまったくできない。このため、取調べの過程で、捜査官が供述者を威圧したり利益誘導して、供述者の意に反する供述を強いたり、供述と異なる調書を作成し、虚偽自白を生み出してきた。そして、これが数々の冤罪事件の原因にもなっていた。法務省の方針は、こうしたことの反省に立ってなされたはずの取調べの可視化の政権公約をないがしろにするものである。また、相次ぐ冤罪事件、裁判員裁判の始まりにより、市民の間に取調べの全面可視化の必要性が認識され、日本弁護士連合会が集約し、国会に提出された取調べの全面可視化を求める署名が約112万筆に及んでいることを無視するものである。
ウ 法務省方針は、「取調べの範囲について検討する」とし、取調べ全過程という大原則を後退させようとしている。
取調べの可視化の本来の意義は、捜査過程を透明化し改革することにある。現在、検察庁や警察庁が実施・試行しているように、取調べの一部のみを、検察官や警察官の裁量によって、録画するだけでは、これらの効果は生じない。はじめから、一部の録画で足りるという発想は、密室の弊害を何も除去しないばかりか、かえって危険である。すなわち、取調べの一部だけでは、捜査側に都合のよい部分だけが録画されかねず、取調べの実態の評価を誤らせる危険がある。
エ 法務省方針は、「平成23年6月以降の出来る限り早い時期に、省内勉強会としての検討の成果についてとりまとめを行う」とし、この際「あらたな捜査手法導入などについても検討する」としている。
しかし、取調べの全面可視化は、如何なる捜査手法であるかに関わらず実現すべきものであり、また、今回の厚生労働省元局長事件に鑑みれば、全面可視化の実現は一刻の猶予も許されない。
3 可視化を巡る社会的情勢

(1) 厚生労働省元局長事件
この事件では、検察官が元局長の部下ら関係者に対する強引な取調べにより、予め描いたストーリーに沿った内容の供述調書に署名押印させるという、違法不当な捜査方法が採られていたことが明らかになった。これらの取調べにおいては、大声を出したり机を叩くなどの脅迫、逮捕するとの脅迫、ほかの者はすべて認めているとの偽計による誘導、やりとりがないのに勝手に調書を作りサインを迫るなどの行為がなされたとされている。
また、取調べを担当した検察官が、取調べメモをすべて廃棄している。最高検察庁が発した「取調べメモの保管について(通知)」及び「取調べメモの適正な保管について(通知)」とその解説文において、「必要性のない取調べメモは速やかに廃棄するよう」指示していたことが明らかとなった。これでは、検察官の判断で、必要性がないと判断されたものは廃棄されることになり、被告人に有利なメモがあっても廃棄されてしまう危険があり、ひいては取調べメモが証拠開示の対象となりうるとの平成19年の最高裁決定を踏みにじるものである。
さらに、主任検事が、証拠として押収したフロッピーディスクを改ざんしたとして逮捕、起訴された。この改ざんは、フロッピーディスクの最終更新日が平成16年6月1日であったところ、これを6月8日が最終更新日であるかのように改ざんしたというものであり、検察官の主張していた「6月上旬に元局長が元係長に嘘の証明書の作成を指示した」という内容に符合させるためのものである。このフロッピーディスクは、検察官の主張を崩し、元局長が無罪であることを証明する最も重要な証拠であったものであり、改ざんは元局長を冤罪に貶める重大な危険をはらんでいた。
その後、改ざんの事実を知りながら、検事正及び次席検事に故意ではないとの虚偽の報告をしたとして、特捜部長と副部長も逮捕され、起訴されるという事態にまで発展した。なお、報道によれば、逮捕された副部長は、取調べの全面録音・録画及び取調べメモの厳重保管を求めているという。捜査の実態を最もよく知る副部長が、あえてこのような要請をすること自体、現状の捜査の問題が浮き彫りになっているというべきである。
(2) 大阪府警事件
この事件は、厚生労働省の元局長事件のフロッピーディスク改ざん問題の最中、今度は大阪府警で起きた事件である。任意での取調べを受けていた男性に対し、警部補が暴言を浴びせたという事件で、男性がズボンのポケットに入れたレコーダーには、「おまえ、なめんなよ。殴るぞ。手出さへんと思ったら大間違いやぞ。」「おまえの人生むちゃくちゃにしたるわ。」などの発言が記録されていた。そして、録音に気づいた警部補は、「そういうことをしていること自体、おまえ黒や」と言い、男性にレコーダーの録音ファイルを「ごみ箱」フォルダに移動させたが、ごみ箱フォルダに移動しただけでは削除されず、再生できたものである。
密室での違法な取り調べの実態が、今度は、警察の取調べにおいて明らかとなったものである。
(3) 冤罪を生み出してきた我が国刑事司法の構造的・制度的問題
厚生労働省元局長事件等の一連の事態は、もはや個々の警察官・検察官の問題ではすまされず、数々の冤罪を生み出してきた日本の刑事司法における捜査の構造的ないしは制度的問題なのである。厚生労働省元局長事件では、密室における強引な取調べによる虚偽の調書作成、取調べメモの廃棄、証拠の捏造により、まさに冤罪が作り上げられていく過程が明らかになったと言える。
こうした捜査の構造的ないしは制度的な問題を改革しない限り、冤罪を防ぐことは出来ない。取調べの全面可視化は、そのために、まずもって実現されなければならいものである。取調べの全面可視化の実現により、冤罪の原因となっている違法不当な捜査そのものを抑制することが出来るのである。
(4) 裁判員裁判の実施
裁判員裁判が実施されて1年半が経過した。裁判員裁判においては、自白の任意性が争われる事件において、裁判員の負担を軽減する必要があることから、取調べの全面録音・録画の必要性がつとに言われてきた。しかし、未だ、これさえも実現されていない。取調べの全面可視化の実現は、適正な裁判員裁判の実現の観点からも、待ったなしの問題である。
4 当会の取り組み

当会は、これまで、取調べの全面可視化を求めて2度の総会決議をはじめ様々な取り組みをし、直近においても報道記者との可視化問題についての勉強会を行い、記事として取り上げてもらうことによりメディアによる市民へのさらなる理解を求め、会内的には「冤罪防止と弁護人の役割」と題する勉強会を実施してきたところであるが、本件決議を契機として、あらためて取調べの全面可視化に向けて取り組む所存である。
5 結語

厚生労働省元局長事件等の一連の事態は、取調べの可視化の実現が一刻の猶予も許されないことを如実に示しているものである。そこで、当会は、政府及び国会に対し、法務省指針を根本的に改め、直ちに取調の全面可視化の実現のための立法作業を開始することを求め、本提案をする。

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