新潟県弁護士会 – 弁護士会

声明・意見書

2006年11月8日|声明・意見書

教育基本法改正に関する会長声明

現在開会中の第165回臨時国会において、教育基本法の改正が審議されており、政府は、これに最優先で取り組むとしている。

しかしながら、教育基本法の改正は国民的な論議のもと、慎重に行うべきであり、当会は、現在審議中の教育基本法改正案に反対である。

1.教育基本法の改正については、国民的議論が十分なされていない。

教育基本法は、憲法が保障する教育にかかわる基本的人権を実現するために定められた教育法規の根本法である。同法は、前文において、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。」「ここに、日本国憲法の精神に則り、…この法律を制定する。」と謳っている。すなわち憲法を受けて制定された準憲法的な性格を有しているのである。

また、個人の尊厳を重んじ、子どもが基本的自由の保障のもとで学び成長する権利を保障している同法は、 1989年国連で採択された子どもの権利条約の理念に沿うものである。すなわち、同条約は、子どもの教育は「人権及び基本的自由並びに国際連合憲章にうたう原則の尊重を育成すること。」を指向すべきとしている(同条約29条)。

したがって、教育基本法の改正は、子どもの将来のあり方を大きく左右するばかりでなく、憲法や子どもの権利条約の保障する基本的人権と自由の保障に関連する重要問題である。

しかるに、改正案は、非公開の協議会等で議論されただけで上程されたものであり、国民に対する十分な情報提供や国民的な議論はほとんどなされていない。同法の重要性に鑑みた場合、その改正を議論するのであれば、国民的議論を徹底することが必要不可欠である。

2.子どもたちのために、いま何が必要か。

政府は、「子どものモラルの低下、学ぶ意欲の低下、家庭や地域の教育力の低下等の問題があることから、教育基本法を改める必要がある」などとして教育基本法の改正を求める。

しかし、これらの問題は、教育基本法の改正によって解決できることだろうか。

子どものモラルや学ぶ意欲の低下、いじめや不登校など、小中学生をめぐる悲惨な事件などは、子どもを取り巻く競争や格差、ストレスの深刻化、社会の荒廃などその社会的環境にこそ大きな原因がある。また教育のあり方にしても、国際連合子どもの権利委員会は、1998年、日本政府の報告書に対し、「児童が、高度に競争的な教育制度のストレス及びその結果として余暇、運動、休息の時間が欠如していることにより、発達障害にさらされている」と指摘して、適切な措置をとることを勧告し、2004年にはさらに、この勧告について、「十分なフォローアップが行われなかった」と再度指摘しているところである。

そうであるならば、教育基本法の改正によって、これらの問題は何ら解決されないのであって、問題の解決のためには、何よりもまず、子どもを取り巻く社会的環境の整備や上記指摘を真摯に受け止めた適切な措置をとることこそが必要である。

これらについて適切な対策を講じないまま、教育基本法を改正しようとするのは、本末転倒である。

3.改正案は、国家による個人の尊厳への介入と教育の統制のおそれがある。

(1)個人の尊厳の後退と精神的自由への国家的介入のおそれ

現行の教育基本法は、憲法の基本理念たる個人の尊厳を、教育の場面において改めて確認したものである。しかるに政府改正案は、個人の尊厳や個性の尊重を、教育の目的からはずし、逆に、「公共の精神」や「伝統」を定める。これは、教育における個人の尊厳の理念を大きく後退させ、戦前に見られた国家のための人材育成の思想が窺われるものである。

また、改正案は、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできたわが国と郷土を愛する・・・態度を養うこと」としている(第2条第5号)。

しかし、「伝統や文化の尊重」や「国や郷土を愛する態度」は、知識や体験を踏まえ個々人が自由で自発的に形成すべきものである。

これらを法律で定めた場合、子どもが「国と郷土を愛する態度」等を涵養しているかどうかが特定の基準で評価され、その強制に結びつくおそれが高い。現に、一部の学校で実施されている卒業式等における国歌斉唱の強制や「愛国心」の通知表における評価などは、「愛国心」などの強制が現実化・一般化するおそれを示すものである。

そのようなことになれば、憲法19条によって保障された思想・良心の自由を侵害することになる。

(2)教育の自主性を大きくそこない教育の国家統制の道を開く

教育基本法は、戦前の国家統制教育に対する深い反省から、教育の自主性を尊重し、教育、ことに教育内容に対する不当な支配・介入を抑止すべく第10条を規定し、同条2項において、教育行政の目標を、教育目的の遂行に必要な諸条件の整備確立に限定した。

この点、改正案は、現行法の「(教育は)国民全体に対し直接に責任を負って行われるべき」(第10条第1項)の部分及び同条第2項全部を削除して、「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべき」とし(第16条第1項)、政府が教育振興基本計画を定めるものとしているのである(第17条)。

こうして改正案は、教育に関する国の国民に対する責任を曖昧にし、法律の規定や政府の教育振興基本計画によって教育内容を統制し、教育現場への国家介入・国家統制を容易にするおそれのあるものである。

教育は本来、人間の社会的・文化的な営みであって、最高裁判所判決も、「教育に対する行政権力の不当、不要な介入は排除されるべきである」(旭川学力テスト事件大法廷判決)と述べているところである。

改正案は、教育の自主性を大きく後退させ、教育の本質を変容させかねないものであり、とうてい賛成できるものではない。

4.

現在、国会において審議されている教育基本法の改正案は、教育の理念そのものを大きく転換し、あるいは、憲法上・条約上の精神的自由が侵害される危険性を含むものである。

よって、当会は、現在審議中の改正案に反対し、国民的な論議の中で慎重に検討することを、ここに求める次第である。

新潟県弁護士会会長 馬場 泰

連絡先・交通アクセス

新潟県弁護士会 新潟相談所

新潟県弁護士会

〒951-8126
新潟県新潟市中央区学校町通1番町1番地
TEL.025-222-5533TEL.025-222-5533詳しい情報を見る

交通アクセス

バス:新潟駅万代口から中央循環線バス乗車、市役所前下車。バス停より300m。
車:新潟駅から約10分。

  • 弁護士を講師として呼ぼう!弁護士派遣制度
  • ひまわり基金運営委員会 人権賞
  • 子どもの悩みごと相談 毎週月・木 16〜19時
  • 中小企業の法律相談はひまわりほっとダイヤルへ
  • twitter @mamorun2014
  • ひまわりお悩み110番 0570-783-110
  • ストップ、えん罪!
  • 司法修習生の方へ
  • 東口日本大震災の被災者の皆様へ
  • 新潟県弁護士会住宅紛争審査会
  • 日本司法支援センター 法テラス
  • 公益財団法人 日弁連法務研究財団
  • 関東弁護士会連合会
  • 2016年1月16日 防災シンポジウム 動画によるご紹介
  • 2016年1月16日 防災シンポジウムご報告
  • 弁護士になろう!
スマホ・パソコンからの
相談予約はこちら