新潟県弁護士会 – 弁護士会

声明・意見書

2008年02月29日|声明・意見書

裁判員裁判実施の延期に関する決議 決議理由

決議の理由

「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年5月28日法律第63号、以下「裁判員法」という)」は、2009(平成21)年5月27日までに裁判員裁判を実施するものとしている。

裁判員裁判について、これまで日本弁護士連合会は、法務省・最高裁判所とともにこれを積極的に推進する姿勢を採ってきたが、その施行期日が近づくにつれて、弁護士、学者、ジャーナリスト、裁判官経験者等から種々の問題点が指摘されるに至っている。これらの問題点は、裁判員制度の実施にあたって、看過できない問題である。

(1) 国民的理解、支持の不十分さ

そもそも、裁判員制度は国民の司法参加という背景を持つとはいえ、日本国憲法施行以来継続されてきた職業裁判官による刑事裁判制度を構造的に変更しようとするものであるし、裁判員に選ばれる国民に対して、重大な負担と義務とを課す制度であるため、一般の法律案以上に国民の声を重視し、マスメディアへの情報提供を含めた民主的な討議を経たうえで、国民の納得を得て法制化、実施されるべきものなのである。

しかし、近時の世論調査を見ても、回答者の8割が「裁判員になりたくない」と答えており、法制化の過程、および現在の施行準備の過程でも、国民に理解され、支持されているとはいい難い状況にあると考えられる。

現在、法務省、最高裁、日弁連は裁判員制度推進のため各種キャンペーンや宣伝活動を行っているが、当初、情報量不足や裁判員制度に対する理解の不足もあり、この制度に関する国民への情報開示が十分とは言い難かった点は否めないであろう。これらの事情から、国民の裁判員制度への理解・賛同が得られたとは言い切れないと考えられる。

(2) 思想良心の自由、死刑の問題等

裁判員は、選挙人名簿を基準としてくじでその候補者が選任され、候補に選任された者には、極めて限定された辞退事由しか認められず、裁判所への不出頭については、10万円以下の過料が課せられるのみならず、選任手続に際して、質問に対し虚偽の陳述をしたり陳述を拒む等すると罰金等を課される。

ア 思想・良心の自由、辞退事由

国民の中には、「人を裁きたくない」「人を殺したくない(死刑にしたくない)」「国家権力に与したくない」等の信念を有している人が少なからず存する。その信念は単純素朴なものから高度に体系化された思想信条と言えるものまで様々であるが、このような信念は、憲法上の人権規定(「思想良心の自由」「意に反する苦役を課せられない権利」)から十分に保護されるべきである。

仮に、思想・信条によって裁判員の辞退が認められるとしても、裁判員候補者は、自己の思想や信条などを公権力に説明しなければならず、基本的人権にかかわる重大な問題である。

イ 死刑の問題

特に、「死刑」の問題は深刻である。裁判員裁判は「死刑を含む重大事件」が適用対象とされており、国民(裁判員)が「死刑か無罪か」「死刑か無期か」という重い決断を迫られる場面も少なくないものと予想される。一般人の平均的な感性を基準とすれば、死刑廃止論者、死刑存置論者を問わず「死刑判決に関与すること」は重い精神的負担になるものと考えられ、裁判員によっては「一生癒えない心の傷」を受ける可能性を否定できない。

ウ 守秘義務

同法は、このような負担を裁判員となる一般国民に課するだけでなく、更に、合議に関する守秘義務を課し、これに違反した場合、懲役刑等が課せられる。守秘義務の期間制限はない。

同法の守秘義務に関する規定は、司法に対する民主的コントロールという観点が乏しいとの指摘がありうるところである。被告人や裁判員に関する情報は十分に保護されるべきものであるが、裁判所は公権力行使の先端の現場であり、刑事事件を司る裁判員裁判の運営に関する情報が一切国民の側に流れない、というのは問題がある。

守秘義務の範囲、程度について検討すべき点は多い。

(3)誤判や冤罪の危険、重罰化の懸念

各地で行われている模擬裁判において、同一の事件を素材としているのに、有罪・無罪で結論が分かれたり、量刑の軽重に大きな開きが生じたりしていることが報道されている。現実の裁判員裁判でも同種の事態が発生することが懸念される。

ア 誤判・冤罪の危険性

誤判・冤罪の危険性は、職業裁判官による裁判においても古くから指摘されており、現実に誤判・冤罪は、深刻な問題である。その原因として、「自白の強要」「調書裁判」「代用監獄」「人質司法」「官僚司法」などの前近代的な刑事手続が挙げられる。これらの土壌を是正することなくして裁判員制度を導入しても、それだけでは、誤判・冤罪、被疑者・被告人に対する人権侵害が少なくなるとは思われない。

誤判・冤罪を防止する裁判員制度を実現するためには、これらの不適正な手続運用を廃絶するしか方法がないのである。この見地から、日弁連は従前から、「証拠の全面開示」「弁護人の取り調べ立会」「権利保釈の原則化による早期釈放」とともに「人質司法打破」「代用監獄廃止」「法曹一元」に取り組んできたところであり、近時は、取調の全面的可視化を提言し、一部に実現を見ているところもある。しかし、裁判員裁判実施の日までにこれらの問題が全て改善されている可能性は少ないように思われる。

イ 重罰化の懸念

最近顕著に見られる量刑の重罰化傾向、これを是認するようなマスメディアの論調、被害者や遺族の公判立会を認める最近の立法を考えると、裁判員制度の導入により、どこまで冷静、中立な判断ができるか、重罰化が助長されないかという懸念がある。

(4)拙速な審理がなされる危険

最高裁判所等は、裁判員裁判は、通常3日程度が審理期間となる旨PRしている。

しかし、争点の複数ある事件等について3日程度で審理を終わらせようとすることは、拙速な審理を招来しかねない。

この点は、既に施行されている公判前整理手続において、「証拠の厳選」「証拠調べの事前請求」「争点の明示」などが実施されており、これは「迅速審理」を念頭に置いたものと理解されているが、「適正手続」の観点から問題とすべき点がある。また、模擬裁判の実情を見ると、実際の運用開始後において、公判廷における新たな主張の制限、公判前整理手続における争点の過剰な絞り込み、証拠請求の制限や尋問時間の無理な短縮等の強引な訴訟指揮等も予想されるところである。

「迅速な裁判」は被告人の人権なのである。

本来、刑事事件は慎重な審理が必要なのに、裁判員の負担ばかりを強調し、いたずらに「迅速性」を求めることは、迅速性は誰の人権かという観点を忘れたものと言わざるを得ず、適正手続(憲法31条)保障にも抵触する恐れも否定できないところである。

(5)被告人の選択権

裁判員制度には、種々の問題点が指摘されており、裁判員裁判で裁かれたくないという思いの被告人もいると思われる。英米法等において陪審裁判の辞退権が認められている点を考えても、裁判員裁判を受けるか否かについては、被告人に選択権を認めるべきである。

(6)

その他にも、[1]裁判員制度自体の違憲論議、[2]多数決判断の適否、[3]いわゆる部分判決制度、[4]裁判員の量刑関与、[5]事件取材・報道の規制、[6]控訴審における裁判員裁判の不採用、[7]無罪判決の検察官控訴容認等、他にも検討すべき多数の問題がある。

結論

  1. もとより司法の民主化・国民の裁判参加は、それ自体正しい理念であり、あるべき方向である。当会は、その実現のため、今後とも「あるべき司法の民主化・国民の裁判参加」について最大限の努力を継続する所存である。同時に、冤罪の根絶のため「人質司法打破」を目指し、それを達成するために「代用監獄の廃止」「取調の全面的可視化」「証拠の全面開示」「弁護人の取り調べ立会」実現させるべく、今後とも鋭意努力を継続する決意である。
  2. 他方、来年5月から実施するとされている裁判員裁判には、上述の通り、制度的欠陥を指摘せざるを得ない。これらを抜本的に是正しないまま、裁判員裁判を実施することは、国民(将来の裁判員、被告人)を犠牲としかねない。
  3. そこで、当新潟県弁護士会は、以下のとおり決議し、国会及び政府に対し決議の趣旨の通り提言する。

2008年2月29日
新潟県弁護士会

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